2003年、1月のサファリダイアリー
1月1日、
元旦の朝は雨で日の出が見れなかった。
昨夜からずっと雨が降り、朝7時前にようやく止んだ。
オロオロゲートで入園の手続きをとると、僕らのサファリカーが今年最初のエントリーだった。[ゲート、7:10]
ミミキレのイジワルじいさんゾウに会う。彼はボクにとって保護区の長老のような存在なので、「新年の顔合わせ」ができて嬉しい。じいさんはいつものようにフラフラと宛もなく移動していた。[キチュワ・マラ川、8:10]
いつもなら警戒心が強くすぐ逃げてしまうシママングースだが、この群れは珍しく逃げない。それにしても、このシママングースの群れはどうしてこんなに太っているのだろうか。遠くから見たときは、ハイラックスかと思ってしまった。
[マラ川、8:30]
マラ川は増水し、川幅一杯に大量の水が流れている。
数頭のカバが上流に向かって移動しているが、流れに押されて思うように行かないらしい。まるでスポーツジムのベルト式ジョギング機の上でトレーニングしている人のようだ。あまりの水圧に押し流されて焦ったカバは、豪快なバタフライのようなホッピングで前進していく姿が見られた。[ゲート、9:40]
「木登り好き」でボクの気になっているメスライオンがウロウロと獲物を探している。やがて、イボイノシシの家族を見つけた。ペアで小さい子供を3頭引き連れていた。
[9:56]
メスライオンが狩猟態勢に入り近づいていく。かなり近づいたところでイボイノシシに気付かれてしまい逃げ始めた。それでもメスライオンは後を追う。車から遠く離れてしまったためよく見えないが、草原をメスライオンの背中がしきりにジグザグ走行しているのが分かった。
ハンティングは成功したようだ。車で近づくとメスライオンはイボイノシシの子供を一頭くわえていた。荒い息をしながらも、ゆっくり歩いている。
やがて適当な木の下まで行くと、捕らえたイボイノシシの子供を食べ始めた。小さな獲物は毛を剥がすようなことはせず、骨も皮も「バリバリムシャムシャ」と音を立てて砕き、飲み込んでいった。およそ30分足らずで、全てを平らげてしまった。
イボイノシシの家族には可哀想だが、これでこのメスライオンは今日を生き抜くための糧を得た。彼女には生後一カ月ほどの子供が2頭いる。その子供たちにも安心してミルクが与えられることだろう。[11:00]
アウトオブアフリカと呼ばれる見晴らし台へ登り辺りを見渡した。
草原の至る所に雨によって出来た池が見えた。双眼鏡を覗くと、泥濘んだ場所でサファリカー達がスタックしないように必死に走っている様子がわかり、しばらく眺めながらその様子を楽しんだ。今日、大きなパイソン(ニシキヘビの仲間)が現われて、牛の放牧中にマサイの少年が引き連れていた犬が一匹食べられてしまったそうだ。放牧中の牛たちはロッジの地主さんの所有物だった。マサイ族にとって犬も大切な財産であり、仲間だ。怒った地主さんは自ら毒槍を持ちだし、パイソンを殺したそうだ。
殺されたパイソンは3mくらいある、と、見学に行ったロッジのスタッフは言う。「ボクも行って、皮を剥いでこようかな。ハンドバックを作ろう」
と冗談で言うと、地主が毒槍で殺したので皮には触らないほうが良いと言われた。毒の付いた場所を触ると人の手も腐ってしまうらしい。一体どのような毒が使われたのか、そちらの方も興味があったが、結局この日は行く機会を逃してしまった。
2日、
[ゲート、15:40]
イジワルじいさんゾウの側を走るサファリカーがあまりに大量の排気ガスを噴出したために、じいさんは鼻を持ち上げ「パオウ!」とトランペットを鳴らして怒った。まあ、その気持ちは良くわかる。[メイン、17:54]
北の空で、草原の端から端までしっかりと掛かかる「パーフェクトレインボウ」が現われた。どんどん色の濃くなるその自然現象に、僕らは何度も車を停めてシャッターを切った。ボクのカメラのレンズでは全部映りきらない。
草原から伸びる虹の根元までクッキリと見られ、そのうち「副虹」も現われた。
感動という言葉では表現しきれない気持ちがある。それは敬意に近いものがある。自然が織り成すほんの一瞬の風景は、まるで奇跡のようだ。
アフリカに訪れる自然派の観光客の人々の中には、カナダや北欧までオーロラを観に行ったことのある人が多い。ボクは寒いのは嫌だけど、サバンナの虹とどっちが奇麗なのか比べてみるのも悪くないな、と思った。5日、
[ゲート、7:41]
3頭の子供を連れたチーターが、獲物を求めて歩いていた。母親のお腹はぺったんこだった。[モラム下、16:30]
夕方のサファリドライブでまた同じチーターの家族に会うが、まだ何も食べていない様子。今日の狩りは諦めたのだろうか。アリ塚の上で家族全員休んでいる。
[オロオロロ下、17:05]
こちらでは2頭の子供を連れたチーターの親子がトムソンガゼルを捕まえ食事中だった。[ギラレ前、17:20]
最近、このあたりに定住したライオンのプライド(群れ)に会う。
立派なタテガミのオス。6頭のメス。それに若いオスがいる。
この若いオスに目を奪われた。もう2歳半は過ぎているだろうが全体的にスマートで、身体の色がずいぶんと白っぽかった。なんとなく「貴公子」という名前が似合いそうだ。
それにしても、この一帯はいつのまにかずいぶんと草丈が伸びてしまった。マサイマラの優占種である「メガルガヤ」が、多くの雨を得て急激に成長したようだ。このままいくと、あと数週間でライオン達の身体が隠れるくらいイネ科が生長し、サファリドライブで探しにくい時期が来るだろう。
6日、
[ミリマタツゥ、8:15]
久しぶりに国境付近まで行くと、こちらはまだそんなに草丈が伸びておらず、ティッシュペーパーフラワーが一面に咲いていた。その他にツユクサやヒルガオなども花を広げ、奇麗だ。
最近保護区中心部ではすっかり見かけないシマウマの群れにここでは会える。
ヌーが一頭だけいたが、ボクがら近づこうとするとものすごく警戒して逃げてしまった。きっとあれだけ臆病だから群れをなさずにここで生きていけるのだろう。[ローリー、10:21]
人工的にできた水溜まりの中に出来た島にカンムリヅルが抱卵していた。
すぐそばには3羽の雛を連れたエジプトガンもいる。[4km、10:30]
7日、
朝、久しぶりに日の出が見られた。しかし昨夜遅く激しい雨があったので、サバンナはそこらじゅう水浸し。まさかオフィスのデスクに置いといた紙パックのジュースが飲まれてしまうなんて思わなかった。犯人はブッシュベイビー(本名ガラゴ:夜行性のサル)だ。
しかしあの紙パックから匂いが漏れていたとは考えられない。もしかしたら、ブッシュベイビーはパックの絵柄のオレンジを見て内容を判断したとか・・・。[コーナー、8:23]
昨日も会った4頭の子供連れチーター。
母親がトムソンガゼルをハンティングしようとしていた。
一足先に、チーターに気付いたトムソンガゼルが逃げ出す。それでも構わず母親は走った。ずいぶん長いこと追いかける。しかも気付いたのだが、母親は全力疾走ではなかった。もちろん走る速度は速い。そのうちにグンッとさらにスピードが上がる。母親はわざと力をセーブしてトムソンガゼルを騙したのだ。トムソンガゼルは錯覚を起こし、本来のチーターのスピードが読めずに間合いが見る見る狭まる。トムソンガゼルを追いかける母親の姿は丘の向こうへ一直線に消えていってしまった。
追跡していくと、見事にトムソンガゼルの子どもを仕留めた母親の姿があった。
母親は呼吸が整うと、「ヒャン、ヒャン」と鳴いて子供達を呼んだ。
子供達のいる場所から、500m以上は離れてる。あんな小さな声で子供達は気付いてくれるのかと思ったが、しばらくして懸命に母親の元に駆けつける子供達の姿があった。8日、
今年始まって、やっと乾季らしい日差しの強い天気になった。[コーナー、17:30]
昨日に続き、子供4頭のチーター親子を観察。
草原で休息しているが、ハイエナにストーキングされていた。
子供達は元気に遊び回っていたが、ときどきハイエナに注意を払っている。
ハイエナがふらふらと子供達のじゃれあう場所へ近づいて行こうとすると、母親は立ち上がり、じっとハイエナを睨み付けた。
いつみていても4頭の子供達のうち激しくじゃれあうのは3頭だけだ。もう1頭は遠慮がちで、ハイエナが来るとすぐに母親の元に寄り添ってしまった。大人しいその個体はメスだった。
こうやって動物達には個性がある。でも野生動物を観察する場合、特出した外見的判断が見えないと継続して観察するのが難しい。いつかトムソンガゼルやシマウマでも個性を探す観察ををしてみたいものだ。