1月中旬のサファリダイヤリー

18日、
[ゲート前、16:59]
あの「木登り好きメスライオン」が、道路の脇にたって遠くを見つめている。彼女の視線の先にはトピの群れがあった。狩りをしたいようだ。
彼女の視線が別の方向へ動いた。そこにはマサイ族の牛がおり、少年が放牧していた。
ライオンはマサイ族のことをよく分かっている。たとえ狩りしやすい牛がいてもマサイ族の復讐を恐れ滅多に手を出そうとはしない。
そのマサイ族のそばにいる野生動物をライオンが狩りしたらどうなるのだろうか。
野生動物はマサイ族の所有物ではないので関知しないはずだ。しかしマサイ族の放牧している側にライオンが現れるのなら、彼らは追い払うかも知れない。
メスライオンはトピとマサイを交互に眺め、ときおり僕らのサファリカーにも視線を送った。このハンティングが成功できるかどうか、慎重に計算しているように見えた。
結局、彼女は別の場所へ向かって歩き始め、草丈の長いところに隠れてしまった。どうやら今回のハンティングを諦めたようだ。また夜になったら狩りを始めるのかも知れない。

19日、
雨が降らなくなって10日間以上過ぎた。
地面もおおかた乾き、泥濘状態の時に車が作った轍で大きく壊れてしまった主要道路にグレーダー(地面を平らにする車)が入り、修復が始まった。
雨が降らなくなったら、とたんに埃がひどくなってきた。ボクのデジタルカメラのズームに塵がつまったのか、調子がおかしくなって焦る。

[マジヤンデゲ、10:20]
久しぶりに湿原地帯へ車を走らせた。
キリンやインパラ、ウォーターバックが群れで多く見られた。最近草原ではあまり見かけないと思ってたけど、どうやらみんなここへ集合していたようだ。

遠くからイボイノシシの親子が走ってくる。後ろから1頭のメスライオンが追いかけてきていた。しかしあまりに距離が離れすぎていたようだ。途中でメスライオンは追いかけるのを諦めてしまった。それでもイボイノシシ家族は後ろを振り返ることをせず、ひたすら走り続ける。もはや何故自分が走っているのかわかっていないかも知れない。
メスライオンは僕らの車に気付き、何故か近づいてきて睨み付けてきた。僕らのせいでハンティングが出来なかった訳ではないのに、悔しげな表情をこちらに見せる。さすがに同乗していたお客さんは恐がって窓を閉めた。狩りに失敗して気が立っているのだろうと判断し、僕らは側によるのを避けその場を移動した。

夕方、西の空に積乱雲が浮かんでいる。ビクトリア湖に近いエリアでは雨が降っているようだ。おそらく近日中にマサイマラにも雨がやって来るだろう。

20日、
朝の空は次第に薄い雲が覆い、太陽が出なかったせいで肌寒い。
午後から突風が吹きだし、夕方から夜に掛けて長い間雨が降る。これでせっかく直してもらった道も泥濘みに戻ってしまっただろう。

22日、

[ゲート、6:48]
明け方すぐに保護区へエントリーすると、あの木登り好きメスライオンが仕留めた獲物を口にくわえ歩いているところに出くわした。
狩りした獲物はイボイノシシだった。半分以上は食べてしまっていた。あとの半分は子供に持ち帰るのだろうか。

それにしても、ライオンは普通プライドという群れを作り共同で獲物を捕まえるものなのだが、彼女はいつも独りで頑張っている。
足の遅いライオンは一頭で獲物を仕留めるのはそう容易いことではないだろう。そう考えると彼女はかなり優秀な狩りの腕を持つことになり、また、優秀だからこそ一頭で狩りするのかも知れない。それともただ孤独好きなのだろうか。すくなくとも彼女には生後2カ月ほどの子供が2頭いるし、ときどきオスライオンがこの子供達を守っているので完ぺきな孤独ではないようだ。

[セレナ、8:00]
最近はマラ・トライアングルの中心部であるセレナ方面に動物達が集中している。
理由は明確。他の場所は泥濘か、草丈が伸びすぎてしまっているためだ。
肉食獣は泥濘に好んで入ろうとせず、サバンナを駆けることに適している走行性の動物達も然り。また草丈が長くなってしまうと、柔らかい草の新芽を好むガゼルやイボイノシシなどの小型草食獣は草丈の短い方へ移動してしまう。また、草丈の長いところは見通しが利かなくなるので草食獣は好まないのだ。

今日もこのあたりに定住したライオンのプライドを見かける。このプライドは主に夜間ハンティングを行うらしい、いつみてもお腹いっぱいで寝ころんでいる気がする。獲物には困っていないのだろう。


不思議なことに、このエリアには少なくとも年若5頭のオスが生息している。それが全て血縁関係なのか、ただナワバリが重複しているのか今のところボクのレポートではわからない。そしてメスは6頭いる。子供はいないようだ。

そこから500mも離れていないところで、2頭の子供を連れたチーターの親子が食事をしていた。このあたりに多くいる、トムソンガゼルを今しがた捕まえたようだ。
チーター親子のそばにいるのはライオンの群れだけではない。ハイエナもジャッカルもすぐ近くで寝ていた。肉の匂いに気づけば、きっと横取りしようとするに違いない。
昨日は雨の中、この場所でライオンに追い立てられたチーター親子が確認されている。
それでもチーター親子がここを離れずに生活するのは、このエリアに獲物が多くいるからだ。そして他のエリアには獲物が少ない意味を示している。

サファリドライブをする観光客にとっては、ここは1度に何でも見られる天国のような場所だろう。
そしてボクにとっても、この環境のバランスにとても興味があり目が放せないエリアの一つだ。

[セレナ、9:00]
トピの群れの中で追いかけっこが始まっている。オスは群れの中をブイブイ言いながらうろついている。どうやら発情期らしい。

[セレナ、9:40]
トムソンガゼルの群れがマラ川の水を飲みに河辺に集まりかけていた。水中には大型のナイルワニの姿が見える。
それなのに僕らのドライバーは、お客さんが車から降りることを許可してしまった。案の定、トムソンガゼルは川側から逃げ出した。
ボクはドライバーに、もっとシチュエーションに注意して行動すべきだと注意したが、またトムソンガゼルは戻ってくるさ、と受け流された。
ヌーの川渡りの時はあんなに気を払ってくれるのに、どうして他の動物ではそれが出来ないのだろうか。
もっとサファリドライバーなら全ての環境に配慮した行動をとってもらわないと、ナチュラリストガイドとして同乗するボクの立場がなくなる。

[デリシャ、10:56]
目の前でおじいさんゾウが道路の水溜まりの泥をすくい、泥浴びをしていた。そして、こちらを見つめる表情に何か不満げな態度が見られた。
「あのゾウは気が立っているみたいだから迂回しよう」

思った通りそのおじいさんゾウは突然、僕らの車に向かってのっしのっしと向かってきた。
特に危害を加えるつもりはないらしいが、突然の行動だった。
ボクは少しずつゾウの行動が読めるようになってきた気がする。

23日、
[セレナ、16:35]
今日のセレナ方面ではサーバルキャットも観られた。本当にここは肉食獣の宝庫だ。しかし探せども、今日はあの2頭の子供を連れたチーターの親子を見た車はいなかった。
おそらくここに定住したライオンたちに迫害されて移動してしまったのだろう。

[セレナ、17:11]
トピの群れの中に「はぐれヌー」がいる。この辺りにはほんの数頭だが移動しなかったヌーがいる。そんな場違いのような一頭のヌーを見ると、興味が沸いてしまう。そして、
「ヌーだからって、ヌーらしく大移動しなくても良いんだよな。ヌーが何処で何をしようと、それは個性があるんだし個人(獣)の自由なんだ」
と、独りボクは納得してしまう。そもそもヌーは自分のことをヌーだなんて思ってないかも知れない。

ヌーの大移動とともに、マラ・トライアングルのシマウマも大方タンザニア方面へ移動してしまった。
だからときどき久しぶりにシマウマを見ると、その美しさに改めて息を飲んでしまう。
もし保護区のクロサイのようにシマウマが1頭しかいなくなってしまったら、きっとサファリカーはライオンやチーターを探してお客さんを喜ばすように、血眼になってシマウマを探すようになるんだろう。

24日、
久しぶりの休暇でナイロビへ向かう。
いつもは国内線の飛行機で移動するが、今回は知人の車に乗せてもらって陸路になった。
マサイマラを西の端から東まで横断する旅だ。
通過する場所はボクの住むマラ・トライアングルとは違う、もう一つの管轄であるナロック州を移動する。
ここにはレジデンツと呼ばれる、この場所に定住してしまったヌーが数多く生息している。シマウマも沢山いる。こちらの場所は僕らのいるほうに比べ、まだまだ雨の量が少ないようで草丈が短かった。


これから2月にかけて、ヌーが出産期を迎える。道すがら、生まれて間もないヌーの赤ちゃんがいたので写真を撮った。赤ちゃんは臆病でお母さんのお腹にぺったりと寄り添っていた。周りにいるメスたちも全て妊娠していた。
来月には、またこの場所へ訪れてみようと思った。