クイーンの娘の疾走

[ムシアラエアスト、7:50]
僕らがそのチーターに気付いたときには、フォトグラファーとおぼしきプライベートカーのボンネットに乗り上げ、辺りを見回していた。
この場所でこんなことをするオトナの個体は「クイーンの娘」に違いない。果たして幼い子供を3頭連れた彼女だった。
僕らが近づいたときには、親子で移動を始めていた。ほどなく、彼女の身体が緊張に包まれる。それを察知した子供達は、あっという間に草原へ身を隠す。
彼女はより低い姿勢になり、慎重に移動を始めた。その先を確かめると、グラントガゼルの姿があった。3頭のオスだけの群れだ。

まだ何も知らないグラントガゼルのオスたち


チーターがハンティングを始めることがわかったので、僕らは遠巻きに観察することにする。
グラントガゼルはまだチーターの存在に気付いていない。まったく別の方向を向いているグラントガゼルをいいことに、「クイーンの娘」はどんどん距離を詰めていった。
グラントガゼルはかなりの俊足だ。しかも立派なオスなので、チーターが頻繁に獲物とするトムソンガゼルの子供のように簡単にはいかないだろう。
いったん身を伏せていた「クイーンの娘」は少しだけ助走をすると、一気に最高スピードに達してガゼルへ突っ込んでいった。数秒遅れてガゼルが気付いて逃げ出す。チーターが追いかけたのは3頭のグラントガゼルのうち離れ離れになってしまった1頭だった。

走り始め



トップスピード

ガゼルは大きなカーブを描きながら逃げる。チーターが追いかける。風のような勢いで2つの影が疾走する。いっとき距離が縮まったかのように思えたが、2頭の間にはまた距離が空きだした。「クイーンの娘」は獲物を諦めた。
それにしても、いつみてもチーターの躊躇の無い走りっぷりに惚れ惚れする。今回は失敗してしまったが、彼女ならまたすぐに次の獲物を探し出せそうな雰囲気だった。
「チイチイ」とチーター独特の高い声で母親は子供を呼ぶ。草原に倒れ込んで息切れをする母親に、子供達はねぎらいを込めるように顔を舐めていた。

子どもと毛繕いを始める。労りあっているようだ。

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