第2回ハナ子捜索

今日の半日サファリの目的は、とにかくクロサイのハナ子の消息を掴むことだった。
ベテランドライバーのピーターおじさんもハナ子の居場所がずっと知りたくて、やっとその日がやって来たと喜ぶ。
目指す場所は、以前訪れて見れなかった遠いオルキヨンボ方面だ。僕らは他のお客さん達よりも早く息込んでロッジを出発した。

乾燥してしまった草原。ところどころ低木が茂る。

オルキヨンボ方面はゆるやかな丘がポコポコと続く草原地帯だ。
草原のイネ科はやまぶき色に乾燥し、低木のオリーブだけがツヤツヤとした緑色の葉を茂らせる。そして相変わらず動物層が少なく感じた。
途中偶然2頭のメスライオンに会った。2頭とも動くための体力をなるべく使いたくないようで、じっとしていた。

僕らは西のオルキヨンボへ辿り着いた。ここからゆっくり南へ南へとハナ子を探しなら進んでいく。
クロサイは葉食といって草原のイネは食べず、潅木の葉を好んで食べるため森に住む。草原に出てくるのは涼しい明け方のみだ。このまま時間だけが経てば、それだけ遭遇率は低くなる。
ピーターおじさんが何かに気付いてサファリカーを止めた。
「おい、あの丘の向こうを双眼鏡で見てくれないか」
ピーターおじさんはサファリドライバーとしてのプライドが高いので双眼鏡は使わない。だから代わりにボクが視界の確認をする。
1km以上離れた丘の上、最初に目に入ってきたのは黒っぽいウォーターバックだった。そこから少し視線をずらすと、アリ塚のような黒い固まり。その黒い固まりが動いた。2本の角がある、でもバッファローじゃない、クロサイだ。
ボクは興奮してピーターおじさんにそう告げると、自慢気に言った。
「はっはっは、やっぱりここにいたのか。ずっと昔にここで見たことがあるんだよ」
クロサイのいる丘の向こうへ行くには谷があるのでぐるっと大回りしなければいけなかった。その間にどこかへ行ってしまわないか、気が気でなかった。
「ピーターさん、あれはハナ子かなぁ」
「ああ、絶対にハナ子だ」
5年ほど前のデータでは、マサイマラ保護区には15頭ほどのクロサイが確認されたという。しかし今は明確な個体数が定かではない。きっと減っているといわれる。
目的の丘へ辿り着いたところでピーターおじさんが歓喜の声を上げた。
「おい見ろ!サイは2頭いるぞ!、ハナ子のボーイフレンドだ…!」
まだまだ遠くてボクにはハッキリ見えないが、確かに黒い同じような固まりが2つ動いている。

顔を向け会ってじっとしているクロサイのペア。何しているのだろう?


2つの固まりは、お互いゆっくり近づいて、寄り添った。
「オスは車に慣れていないかも知れないから、近づいたら逃げるかもな」
まず僕らはサファリカーを遠くに止めて、そこからハナ子の証拠写真を撮る。
そして、どれだけ近づけるかわからないが、ゆっくりとハナ子の側へ車を動かす。
ボクは自分の目であれが本当にハナ子か確認したかった。こんなに遠くへ来たのだ。ハナ子ではないクロサイがいても不思議じゃない。
サファリカーがクロサイへ100mほどのところまで近づいたとき、顔を向けあってじっとしていた2頭のうちの1頭が、顔を上げて振り向いた。
ほら、あれがハナ子だよ、とピーターおじさんが言う。ボクは双眼鏡を使って観察する。
とがった細い角、柔らかそうなピンク色の唇、そして目の周りのシワ。確かにハナ子のようだ。でもなんだか大きくなった(太った?)気がする。それはボクがあまりに久しぶりにクロサイを見たせいだろうか。

久しぶりに観たハナ子


もう1頭のオスは一向に顔を持ち上げようとせず、僕らにお尻を向けて菜食をしている。ハナ子とは同じくらいの大きさだった。しかし肩の高さはハナ子より盛り上がっていて逞しさを感じる。そしてわき腹の皮膚には何本も縦に線が入っていた。オスはオトナになると、筋肉と皮膚の厚さでこのようになるらしい。
オスがとぼとぼと歩き始めた。日差しが強くなってきたので林の中に移動するようだ。ハナ子もその後に付いていく。
しかしハナ子は僕らの停まっているサファリカーが気になるのか、なんども振り返っては頭を高く持ち上げ、角を突きだす仕草をした。あれは遠くの僕らの匂いを嗅ごうとしているのか。
ピーターおじさんさん曰く、喜びのポーズ、らしい。
「ほら、I' m married! I' m married! って言ってるよ」
ピーターさんは嬉しそうにそう言った。なるほど、ハナ子がときどき小走りするところも、なんだか楽しげにスキップしているように見えてきた。

角を突き上げるハナ子の喜び(?)の仕草

2頭のクロサイは林の茂みの影へ消えていった。もう少し遅くここへ辿り着いたらハナ子には会えなかっただろう。
この場所はどのロッジからも遠い。だから僕らは一度も他のサファリカーに会わなかった。ここならハナ子は存分に新婚生活を満喫できるのではないか。
今日は遠出した甲斐があった。

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