5月上旬のサファリダイヤリー、その2

7日、
[7:25、ジャンクションギラレ]
半日サファリに出かけた。
メインロードに先日見かけた兄弟オスライオンの1頭が寝そべっていた。水浸し草原のを嫌って道路に出てきたのか。僕らのサファリカーが横を通り過ぎるときもまったく動こうとせず、目だけを動かしていた。

億劫そうに振り向く眠たげなオスライオン



[7:53、ミリマンビリ]
比較的乾燥した草原を、40頭ほどのゾウの群れが移動していた。
何頭かの若いゾウが鼻を絡めて力比べをして遊んでいる。
僕らはサファリカーのエンジンを止めて見守っている横を、草を食べながら悠々と通り過ぎていった。
ゾウは僕らの耳には聞こえない低周波でコミュニケーションしているらしいが、こやってそばにいると、ゾウはとても静寂な穏やかな世界に暮らしているように思える。

[8:42、マジヤチュンビ]
この付近にナワバリを持つライオンの所帯にあった。メス6頭、子供4頭みんな元気そうだった。

移動するミリマンビリのメスライオンたち

戯れあう無邪気な子供たち


[10:00]
チーターを探して国境まで来たけど、探し会うことが出来無かった。
考えたら一週間経つのにまだ1頭のチーターにも会っていない。見れない理由の一つは、連日の雨で泥濘が多く、草原をくまなく散策できなくなったことと、もう一つは観光客が全体的に少なくなって、どのロッジもサファリにでる車が少なく情報交換が減ったことによるだろう。

この付近は草原の緑が奇麗で、小さいカヤツリグサの花が一面に咲き乱れ、300頭ほどのシマウマの群れが平和そうに彼方此方草を食んでいた。

8日、
ショッキングなニュースが流れた。「ライオンの子殺し」情報だ。
朝7時頃、やられたのは僕らのフィールドで何度も見かける「木登り好きメスライオン」の子供だった。
殺したのは最近頻繁に見かけるようになった、タテガミの白い兄弟ライオンだ。
それを他のロッジのドライバーが確認した模様。兄弟ライオンは子供を食べてしまったという。子供を殺されてしまったメスは今非常に気が立っているのであまり車で近づくな、という連絡も流れた。
この付近をナワバリとするライオンの群れは「シエニのプライド」と呼んでいて、立派な黒いタテガミを持つオス一頭と、しょっちゅう単独行動する変わりものの「木登り好きメスライオン」と子供2頭、それに仲良しメス3頭とその子供1頭がいた。
あの兄弟オス2頭にナワバリとメスを奪われてしまったら、子供は血縁関係でないかぎり、必ず殺されてしまう。そしてあの立派な黒いタテガミのオスは何処へ行ってしまったのだろう。

このマラ・トライアングル地域を管理するマラ・コンサーバンシーの月刊報告の中でも、ライオンの群れの流動が激しい(群れが定まった地域にいる期間が短かったり、喧嘩による死亡率が多い)ことを指摘していた。原因は、個体数の過密にあるという。
ここを訪れた者が容易に見れることから「ライオン天国」と呼ばれ観光客に人気のあるマサイマラ。でも環境の立場から考えると、ライオンにとっては決して天国ではなく、問題を抱えてる場所なのだ。
保護区から一歩踏み出すと、そこは家畜とそれを守るマサイ族で一杯だ。このエリアで大型肉食獣であるライオンが安心して暮らせる場所は保護区の中だけに限られてしまう。当然快適な場所を求めてのナワバリ争いが多発するだろう。
2、3ヶ月の間だけど成長を見守ってきたボクとしては、あの無邪気だった子供たちが死んでしまうのは悲しい。一方、兄弟ライオンとしては、自分の群れ(メス)を確保するために、そこにいたボスのオスとその子供達を処分しなければいけなかった。彼らも必死だ。
そしてボクは、そんな事情や僕らの観念の及ばない力があって、決められたシステムが働いて、生態系自らがバランスをとろうとしているのではないのか。そんな事を考えてしまう。
ボクは何とか、そんな森羅万象の一部を理解してみたい。だから引き続きこの群れの動きを可能なかぎり見つめていくつもりだ。

[17:45、セレナ]
セレナのナワバリにいる若オスライオンのうち2頭に会った。
1頭はマラ川の側で何か食べている。双眼鏡で確かめるとカバの皮だった。自分でハンティングしたとは思えないので、この増水で死んだカバの肉を拾ったのだろう。何故そう推測したかというと、溺れて死んだと思われるカバは何度も見たことがあるし、上を凌ぐためカバの屍肉を漁るライオンも見たことがあるからだ。

カバの皮片を食べるセレナの若オスライオン




ライオンがカバの皮に歯を当てるとき、ブチブチという大きな音がする。カバの皮はかなり厚くて固いようだ。もう1頭はお腹一杯の様子で寝ていた。

9日、
[9:03、ゲート前]
早朝サファリドライブへ行き、泥濘みにサファリカーがスタックしてしまい立ち往生した。そして急いでロッジへ向かう途中だった。道路を歩くメスライオンを見た。この辺りを生活圏にする「木登りメスライオン」だ。僕らの車を気にしないでトボトボと通り過ぎていった。情報が確かになら、彼女の子供達は新しく侵入してきた2頭の兄弟ライオンに殺されてしまった。確かに今朝は子供たちを引き連れていなかった。
ライオンの子殺し情報を聞いた時、ボクはにわかに信じられなかった。信じたくなかったのかも知れない。でもこの目で子供がいないことを確認したならば、ボクは独り身になってしまった彼女の行動をこれから注意して観察しなければと思う。

10日、

いつもここに来ると、トムソンガゼルに混ざってこのウォーターバックのオスがいる。周りには仲間はいない。彼は老年のオスなのだろうか。車には慣れているらしく、逃げようともしなかった。
サバンナの世界には「老衰」というものはあるのだろうか考えた。きっとないだろう。
走らなくなった草食獣は、いつか肉食獣の糧になるのだろう。ライオンの爪と牙にかかり苦しみながら死ぬのだろう。そのときまで野生は必死で生きなければいけないのだ。

心なしか、悲壮感の漂うウォーターバック。
いつかこの場所で見かけなくなったときは、捕食者の糧になったことを意味するのか



[17:00]
今日も夕方より、西の空から雨が降り出した。
このところ毎日の雨にすっかり慣れてしまったが、最初のころのいつ降るか予想の出来なかった雨に比べ、夕方から朝にかけて降る典型的な雨季の雨へと落ち着いてきた気がする。

マサイマラの空を黒い雲が低く覆い尽くした。そして、雨のカーテンが近づいてくる。