5月中旬のサファリダイヤリー、その1
11日、
[17:45、アウトオブアフリカ]
雨の中、彼女はじっとしていた。
いつものエリアで「木登りメスライオン」を見つけた。雨の中、アリ塚の上に登ってじっとしている。やはり子供はいなかった。
時々、唸り声とは違う低い声で鳴いている。ボクには子供を探す声に聞こえた。
ライオンにも喪失感はあるだろう。
そんなことを考えながら、雨に濡れるまま佇むメスライオンを見ると、どこか哀愁を感じてしまう。
[18:19、ダイアモンド]
夕暮れどき、ロッジへ帰る途中のオロオロロの丘の上に「シエニのプライド」のうちの1頭のメスライオンを見かけた。このメスライオンたちはいつも仲良く一緒にいるので、何処かに仲間もいるのかも知れない。メスのお腹は一杯になっていた。
保護区の外で見かけても、ボクはもう驚かない。特にこんな大雨の続く時期は、水浸しの平原を避けて丘の上に登ってくるのを何度となく確認しているからだ。
でもきっと明朝明るくなる前にマサイ族との衝突を避けて保護区へ戻っていくことだろう。12日、
[6:45、キチュワエアスト]
40頭ほどのバッファローの群れが一列になって移動している。
そのやってきた方向から、兄弟オスライオンの一頭がのっしのっしと歩いてき来た。別にハンティングする様子ではない。
この場所で、このオスライオンを見るのは初めてだった。「シエニのプライド」をそっくり奪ったこのオスライオンはナワバリをどんどん拡大しているのだ。
朝日を浴びて光るオスライオンの身体
連日の雨で、マラリエンダの橋が浸水したそうだ。きっと上流のマウ山地でも激しい雨が続いているのだろう。2年前のように橋が崩壊してしまわなければよいが。あのときは、半年ほど対岸へ行けなくなってしまい大変な思いをした。
この2日間、電話回線もまったく不通の状態になってしまった。この雨の影響で電話回線の何処かがシリアスな故障をしてしまったのだろう。こうなると、全ての情報がストップしてしまうので、マサイマラはまさしく陸の孤島だ。夜、僕らのロッジにマラ・バッファローというロッジから無線で連絡が入った。眼下の草原に車のヘッドランプが見えないか確認してくれという。
話を聞くと、ロッジのサファリカーがなんと4台もスタックしてしまい、お客さんとともにまだ帰って来ていないのだそうだ。もう夜8時を過ぎていた。
雨は草食動物にとって大切な草原を維持しているけど、観光に従事する人間にとって大量の雨はこのように災難や苦労を導いてる。13日、
[16:30、ムワリム]
夕方、ライオンを探してタンザニアの国境付近まできたが、今朝居たらしい場所にはいなかった。どこかへ移動してしまったようだ。あいかわらずこのエリアにはシマウマが沢山いて平和だ。
1泊だけ滞在している同乗のアメリカ人が、
「マサイマラにはライオンが一頭もいないのか?」
と、不満を言った。
僕らは確実に今いる情報をたよりにセレナ方面まで戻って、メスライオン3頭に会った。
「OK!マサイマラでは3頭のライオンを飼っているってみんなに伝えるよ」
アメリカ人のお客さんは、そう言って我らドライバーを困らせた。
また今日も雨がやった来た。スタックしないように慎重に運転してもらい、8時前には何とかロッジへ戻った。
一緒に国境付近まで出かけた別のロッジの車はスタックしてしまい、明朝まで戻ってくることが出来なかったそうだ。お客さんは夜10時頃、別の車で他のロッジまで辿り着き、そこに泊まったという。
最近そんな事態が多発している。次は僕らの乗っている車かも知れない。
すぐそこまで真っ黒な雨雲が迫ってきた。
14日、
[アウトオブアフリカ、8:14]
「木登りメスライオン」と、あの2頭の兄弟ライオンが同じ場所にいた。この場所はもともと木登りメスライオンの住み処だったところだ。彼女はもうすっかり新しいプライドのボスたちに従うようになったのだろうか。
新しい「シエニのプライド」のボスになった2頭のオスライオンが休んでいる。
兄弟ライオンは相変わらず仲良く並んで、久しぶりに出てきた朝日を気持ち良さそうに浴びていた。[モラム先、16:50]
夕方のサファリドライブでは、木登り好きメスライオンと同じ「シエニのプライド」に生活する別のメスを見つけた。なんと1頭の子供を引き連れている。
親子は道路を歩いていたので後を付けていくと、いつもの仲良しのメス2頭に会った。おたがい激しく身体をこすり付けあい、スキンシップを交わした。子供も「アオアオ」と甘ったれた声を出しながらオトナに交じってスキンシップを行う。
子供も一緒に尻尾を上げて、機嫌が良い事を伝えている。
この子供も、今現在プライドを支配する兄弟オスライオンの子供ではなく、追放されてしまったタテガミの黒いオスライオンの子供だったはずだ。何故、木登りメスライオンの子供だけ殺されて、この子供だけが残ったのだろう。
このメス3頭と子供だけが、あの兄弟ライオンから独立してプライドから逃げ出したとは考えられない。ボクは10日ほど前にこのメス達と兄弟ライオンが一緒にいる場面を見ているのだから。そのときは子供がいなかったので、てっっきりボクは木登りメスライオンの境遇と同じように、彼女達の子供も殺されてしまったと思っていた。
殺されなかったメスの子供
気付いたことがある。この生後4〜5ヶ月の子供は、メスだ。そして木登りメスライオンの子供はオスだった。
新しく群れを乗っ取ったオスが自分の血縁でない子供を殺すのは、その子供がオトナになったとき、自分にとって脅威な存在になるのを防ぐからだという。だとしたら、その子供がメスの場合脅威な存在にならず、かえってオトナになったとき自分のメスとして迎え入れることができるメリットがあるのではないか。
まだまだライオンの世界は、ボクにはわからないことが沢山ある。15日、
[アウトオブアフリカ、7:15]
昨日と引き続き、今朝も「木登り好きメスライオン」と兄弟ライオンは同じ場所にいた。丸一日以上、何処にも移動しなかったことになる。
メスの行動を気にするオスライオン
日光浴していたメスがゆっくり起き上がり、移動を始めた。それに気付いた兄弟オスライオンも、慌てて起き上がりメスの後に続いた。
もしかしたら兄弟ライオンは、あの木登りメスライオンが発情するのを待ち構えているのかも知れない。
母ライオンは習性により、子供を失ってから3日以内にまた発情を始めるという。そしてオスライオンは習性として、プライド(群れ)を守り子孫繁栄のために交尾を繰り返す。この習性をライオンは崩すことはないだろう。彼らがライオンで在り続けるかぎり。[モラム、8:03]
「シエニのプライド」のメスライオン2頭と子供1頭が丘の上で休息している。こちらも昨日と引き続き同じ場所だった。
子供は独りで木に登り、僕らのサファリカーを警戒していた。この子はいつまでたっても臆病だ。一人っ子のメスだからだろうか。
木に登って間から、こちらの様子を窺う子供
16日、
今朝、僕らの利用する滑走路近くの橋が、夜間の激しい雨で水嵩が上がり渡れなくなりそうになっていると聞いた。
午後、その橋へ行ってみると、もう水嵩は減っていて沈んでいた橋が見えるようになっていたが、強い水量により橋の下の土台がこそげ取られてしまっていた。早急に修復しないと車の重みで崩壊してしまう恐れがある。
崩壊寸前の危険な橋