5月下旬のサファリダイヤリー

23日、
セレナロッジへ遊びに行く。
ロッジマネージャーは、今年はお客さんが少ないと嘆いている。海外からの旅行者が減ってしまったのは、テロリズムの影響が強い。
「なぜケニアばかり狙われるのだ?!」
だいたい皆同じように納得いかない面持ちだ。
さらセレナロッジへやって来るお客さんの8割方はナイロビから陸路でやってくる人達で、最近この大雨によりここまでたどり着けない車が多くて困る、という。
話は変わって、セレナロッジには面白い木が一本生えている。南アから運ばれてきた30mほどの高い木で、名前はない。実はこれ「SAFARI. COM」というケニアで爆発的に普及している携帯電話会社のアンテナで、木に似せた人工物なのだ。


つまり今年から、このマサイマラでも(一部だけど)携帯電話が使えるようになったのだ。エレクトロニクスの発展は途上国でも著しいと感じながら、そのうちマサイ族も携帯電話を方手に持ち、牛の放牧するようになるのかと想像すると、少し違和感がある。
ちなみにタンザニアのキリマンジャロの頂上には、とっくに携帯のアンテナがたっており、登山者の緊急事故対処に役立っているという。

[17:00]
連日の大雨で池と化してしまった側溝は、少しずつ水嵩が減っているようだ。あと一週間ほど雨が収まれば、サファリカーは横断することが出来るだろう。

25日、
どうにも我慢できなくて、車を出してもらって半日貸しきりサファリへ行ってきた。一週間ぶりの観察だ。
今回は主に小鳥達の写真を撮りたいと思って奮闘するが、せいぜい6倍ズームのボクのデジカメだとフレームに入る小鳥は小さすぎる。飛んでいる物体を追いかけてシャッターを切っても作動に時差が出来てしまい納得のいく写真にならない、高性能といわれるデジカメでも限界を感じた。

唯一なんとか撮れたアカガシラホウホウジャク


・ライオンの交尾のきっかけ
 [10:00,ムワリム]

26日、
[クフコヤニョカ、17:26]
「オトナゾウが死んでいる」
この情報をバルーンのパイロットから聞きつけたのは昨日だった。でも、詳しい場所の明細がわからなかった。
今日になってサファリドライバー達から居場所を聞きつけて僕らも向かうと、そこには先客でライオンたちがゾウの肉を食事中だった。

ゾウの肉は食べごたえがありそうだ。
後ろの石が白っぽいのはハゲワシの糞のせい。




「ミリマタトゥのプライド」とボクが読んでいる、この付近をナワバリにしている大所帯だ。ここのボスライオンは昨日から引き続き、発情中のメスとハネムーン中でいなかったが、他のメスと子供たちは全員集合しているようだ。
ゾウは草丈の高い場所の、小川の水の中で力尽きていた。ゾウは自然死だという。といっても僕らには死因がなんだかわからない。たぶん野生では寿命を全うできる動物はいないと思う。このゾウは肉食獣にやられたのでないし、餓死でもなければ、きっと病気で倒れたのだろう。どっちにしろ自然死は自然死だ。
ゾウの牙は僕らの来る前にレンジャー達が切断して回収していったという。密猟者がやって来て盗む捕る前に、管理局で保管するのだ。そして残された屍は、サバンナの決まり通り野生の捕食者によってきれいに処分される。
大移動によってヌーやシマウマの大群がタンザニアへ行ってしまったマサイマラ。そこに済むこのライオン大所帯にとって、ゾウの肉はこの上ないご馳走になったに違いない。ライオンはゾウの硬い皮膚を避け、下腹部の比較的柔かそうな場所に顔を突っ込み食べている。内蔵はあらかた食べ尽くしてしまったようだ。子供達はお腹が破裂しそうに一杯に膨れ上がり、満足そうにしていた。すぐそばには3頭のハイエナが鼻をくんくん鳴らして順番待ちをしている。さらに近くの木の上には、おびただしい数のハゲワシが鈴なりになってじっと待ち構えていた。
きっとライオンたちはこれから数日はこの場所から離れないで、肉を独占するだろう。

27日、
この数日雨が降らなくなった。そのかわり一日中強い風が吹く。この風が雨雲を吹き飛ばしてくれてるようだ。

新しい「シエニのプライド」のオスとメスがメッティング(交尾)をしていると聞いた。きっとそのメスは以前子供を失った「木登り好きメスライオン」だ。メスは子供がいなくなったので、また新たな子供を宿すため発情をはじめたのだろう。
2頭がいると情報の入った場所は、折しも「木登り好きメスライオン」が子供を産んだ薮の側だった。新しい群れのボスに子供を殺されたメスは、今度はそのボスの子を腹に宿そうとしている。それはどういう心境なのだろう。当事者ではないボクには、当たり前だけど気持ちはわからない。でもきっと、メスライオンの気持ちの何処かではボスに殺された我が子どもの記憶が残っているに違いない。その想いがどんな形で残ろうと、メスはきっと本能で新しい子供を作り、また育てていこうとするのだろう。

古いアリ塚の上でいじけるオスライオン一頭



結局、今日はハネムーン中のオスメスには会えなかったけど、ボスである兄弟ライオンのうちの置き去りにされたもう1頭のオスには会えた。
このオスは朝からずっと同じアリ塚の上でまどろんでいるそうだ。僕らがサファリカーでそばへ寄っても見向きもしない。もしかして、いつも仲良しの兄弟ライオンなのに今回は独りにされたことでイジけているのでは?

上空では気圧や風の強さで雲の形がどんどん変わる



風の影響で、雲の形がどんどん変わっていく。まるで画家が描く一つの美しい風景画を見ているようだ。もう数分したら模様の変わってしまう空のキャンバスが切なくて、そして勿体なく思い、急いでデジカメのシャッターを切る。

今日の夕日も奇麗だった


28日、
[キチュワエアスト、8:00]
朝のサファリドライブでは、クロサイのハナ子とその彼氏に会えた。
もうずいぶん前からガイドでは説明していたが、そろそろこの彼氏に勝手に名前を付けようと思う。メスがハナ子なので、やはり「タロウ君」だろう。
タロウの年齢はわからない。ちなみにハナ子は今年10歳だ。普通、クロサイのオスはメスより一回り大きいと言われているが、タロウはハナ子とまったく同じサイズをしている。タロウが小さいのか、それともハナ子が標準より大きいのか、ボクは他のクロサイを良く観察たことが無いのでわからない。角の長さもほぼ同じなので、遠くからだとどちらがハナ子かわからなくなってしまう。でもタロウの方が鼻先の角が太い。そしてオス特有と言われるわき腹にいくつもの縦の皴(?)が皮膚に入っている。それで見分けがつくのだ。もちろん双眼鏡でよく観れば目つきも違う。

左がハナ子で右がタロウ君




ハナ子とタロウは本当に呆れるくらい一緒に行動している。ときどきお互い鼻先を近づけてじっとするのは、クロサイの愛情表現だというのを最近知った。つまり2頭はもっか熱愛中ということだ。
ボクはタロウより以前からハナ子を知っているせいか、何故かまるで親父になった気分で、いつハナ子に子供が産まれるのかを気にしている。

29日、
[キチュワエアスト、17:15]
バッファローの群れの中にずいぶん白っぽい顔をした個体がいる。よく見ると、そのバッファローは顔に「泥パック」をしっかり塗っていた。
「泥パック」はバッファローのほかにもゾウやサイ、イボイノシシたちなど、特に毛が短い(もしくは無い)動物がよく行うようだ。

そうとう泥を顔に塗りたくったらしい。右の角には土の塊が。




その役割としては、強い直射日光より皮膚を守る一種の「日焼け止めクリーム」の役目を果たし、もう一つの効果は身体に泥を塗りたくり、それが乾燥して剥がれるさいに泥と一緒に皮膚の古い毛や角質、それに寄生虫を取る役目を果たす。この行為は一見すると汚く見られがちだけど、「泥パック」は誰よりも奇麗好きな野生動物にとって大切な美容維持道具なのだ。
それにしても、このバッファロー…。
普段から表情より感情を読み取れない動物だが、いつにも増して無愛想で、逆に可愛らしさを覚えてしまう。

[キチュワエアスト、17:22]
普段はつがいで過ごしている姿をよく見かけるカンムリヅルが、18羽も集まって一塊になっていた。
特にリーダー的な存在が誘導するわけでなく、ただ1箇所で草を啄ばんでいるように見える。
その内の一羽が翼を広がると、みんな一斉に羽を広げ軽く飛び上がりながら相手を威嚇するような行為を見せた。それを何度と無く繰り返す。
これは集団求愛ダンスなのだろうか?
ツルの仲間は一生相方と連れ合う生き物と思っていたけど、違うのだろうか。

求愛ダンス?



[オロオロロ上、18:30]
以前まで続いた大雨の影響は、そう悪いことばかりじゃない。現在道端には野生の花が咲き乱れている。
今年のオロオロロの丘では例年になくグロリオサが咲き乱れている。グロリオサは「炎のユリ」と言われるように、まるで緑の草原に小さな赤い火が灯っているようで目が吸い寄せられる。

明日からボクは休暇でマサイマラをしばらく離れる。今月は一度もチーターに会えなかったのは残念だ。
それにしても今月のサファリダイヤリーは、ライオンの話ばかりになってしまった。