6月のサファリダイヤリー、その3

28日、
[ギラレ前、7:23]
りっぱなメスライオンが目の前を歩いていく。その後にはタテガミの生揃ったオスが続く。



この場所へ来るのは久しぶりだが、このオスライオンをボクは知らない。もう一頭オスライオンがそばにいると無線で聞いて思いあたった。この2頭のオスライオンは先日の19日にタンザニアの国境にある岩の上で見た個体だ。
新しいナワバリを求めてマサイマラへ進出してきたのだろうか?このまま進むと、シエニの兄弟オスライオンのプライドのナワバリに入るだろう。2頭のオス同士のナワバリ争奪にならないだろうか。

[マジヤチュンビ、8:00]
マサイ族が、200頭以上の牛を連れて保護区のど真ん中を歩いていたので驚いた。
行く先はわかっている。「マジヤチュンビ」といわれるミネラル分を多く含んだ泉へ家畜を連れて行くのだ。
しかし、保護区にマサイ族が入るのは違法ではないのか?
そう思ったけど誰かが無線でレンジャーへ通報するようすもなかった。
後でゲートに駐在するレンジャーに尋ねたところ、マサイ族がマジヤチュンビへ牛を連れていくことは、月に1回だけなら取り決めにより許可されているのだそうだ。ちゃんとマサイ族と一緒に、レンジャーも同行して歩いているという。
もともと、このマサイマラ保護区はマサイ族の土地だった。だから彼らの伝統を守るためにも、保護区管理側としてもある程度の配慮は必要になるのだろう。
それは保護区と地域住民の共存方法だ。

[ギラレ前、8:30]
タンザニアまでかけてこの周辺をナワバリにしているオスチーターの「二枚目」に会った。シルエットだけではお客さんがメスライオンと間違えるほどに大きく、そして逞しい。



もともと単独行動が習性のチーターだが、この二枚目の飄々とした仕草を見るたびに「清い孤独感」が全身から漲っているように思える。なんだか見て気持ち良い。
ほどなくチーター見たさに5,6台のサファリカーが押し寄せて来た。そして歩く前方を通せんぼされてしまった。でも二枚目はそんなこと気にも留めないで、まるで見られることに慣れているモデルのような振る舞いを見せながら車と車の僅かな隙間をぬって、自分の赴く場所へ去っていった。
間近でチーターの接近を見た観光客達から、そのスタイルの良さに羨望の溜め息の声が聞こえた。

夕方4時頃より夕立が始まった。
こんな日の夜は冷え込む。このようにしてこれから一番寒い7月がやってくるのだ。

29日、

[セレナスワンプ、16:44]
湿原で泥浴びをしたクロサイのハナ子に会う。
日差しの強い日中は森や茂みの中で休息していることが多いので、この時間にハナ子と出会えるのは珍しい。
草原で食事中のハナ子はいつも速足で、大好きなナス科の植物を探し歩いているのだが、身体中に泥を塗りたくった今日のハナ子は何をするということなく佇んでいた。時々車の騒音に頭を振り耳を傾ける。

[セレナスワンプ、17:17]
同じ湿原の樹の下では、メスライオンがイボイノシシを食べていた。
このイボイノシシは早朝仕留めたらしい。メスライオンは身体中にハエをたからせながらバリバリと音を立てて食事をした。
獲物の少ないこの時期、イボイノシシは貴重な食料源だ。

30日、

[アウトオブアフリカ、16:30]
久しぶりに変わり者の「木登り好きメスライオン」に会えた。今日も彼女はお気に入りの木の一つに登っていた。でも今日はいつものようにリラックスできるポジションを忘れてしまったのか、落ち着けず、木の上でウロウロしていた。

[アウト下、16:57]
数頭のゾウの群れの中に、ハナギレ(鼻の少し短い奇形の個体)の母親がいた。十歳くらいのサイズになる子供を引き連れている。
西日の強くなるこの時間、ハナギレ母さんは常に子供を自分の身体の陰に子供を入れて日焼けから守っていた。
水溜まりへ連れていくと子供は勢いよく泥浴びを始めた。気持ちが良いのだろう、子供はねっころがって泥に身体を浸ける。ハナギレ母さんは側に寄り添いながら、ときどき子供の身体を鼻で支える。その目がやさしかった。
ハナギレは普通の個体に比べると鼻が少し短くて、十分な食料を食べれなくて身体が小さくなってしまう。でも母親としての子供への愛情は、なんら変わることはない。

[ゲート下、17:20]
草丈の高い草原にインパラの親子が隠れている。子供は本当に小さく、生後1週間は経っていないように見えた。車の音に警戒して母親は逃げ出した。赤ちゃんは必死で母親の後を追いかけてジャンプした。
先日もちがう場所で同じようなサイズの赤ちゃんを連れた母インパラを見つけたのを思いだす。
インパラは群れを作る習性のある動物だ。群れを作る理由の一つは、メスには「子育て」という大切な仕事があるからだろう。捕食者に狙われる危険からお互いの身を守るために群れを作るのだと思っていた。
しかし、本当に小さい赤ちゃんが群れの中にいると余計に危険が伴うのかも知れない。群れでいる方が目立ち、捕食者に見付かりやすく、その中に赤ちゃんがいたら必ず狙われてしまうだろう。
だから本当に小さい生まれたばかりの赤ちゃんは、しばらく母親と群れからはずれるのかも知れない。



先日出会ったインパラの親子は道路の真ん中にいた。赤ちゃんが草むらへ逃げ出すと、母親は反対方向にいた僕らのサファリカーへ突っ込んできた。
そして車の前方できびすを返し素晴らしい跳躍を見せて道路脇へ逃げていった。
あれは危険なもの(僕ら)から子供を守るため、母親が自分自身に注意を向けさせる行為に違いない。