ガイドウォーク
ヘンリーの説明によると、カガメガの森は赤道付近の高地に位置する「ギニオ・コンゴリアン林(Guineo-congolian Forests,)」と呼ばれる植生に属しているという。
1万5千年前、世界中がまだ温帯に包まれていたときのままの森林が残された数少ない場所だという。1万年前より徐々に乾燥化してきた気候と、200年前からの人間活動によってこの森林は減少し続け、現在ザイールとウガンダの一部、それにケニアではこのカカメガのみになったそうだ。
わずか240平方kmというサイズ(マサイマラ国立保護区は1530平方km)で、現在ケニア野生生物局と森林庁により国立保護区として運営されている。
左上:フタバカギハシゴシキドリの親子
右上:チャムネカッコー
左下:ミズイロサンコウチョウ
右下:カゲロウチョウのつがい
ボクは泥よけのスパッツを着用し片手に双眼鏡、もう片方にデジカメでヘンリーと共に森の中へ入っていった。
熱帯雨林なので確かに雨が降るらしく、地面は泥濘んでいるところもあったが、マサイマラと同じように大地溝帯の影響で標高が1500m以上と高いせいだろう、あんがい気候はサッパリしている。そして森の中はヒンヤリとしていて心地良かった。
さすがにガイドのヘンリーは森の中の小さな鳥を探すのが上手い。さっそくマサイマラではなかなか見つけることが出来無いフタバカギハシゴシキドリを見つけた。
サルの仲間ではレッドテールモンキーがよく見られた。ブルーモンキーもいる。そして奇麗な毛皮のせいで絶滅危惧種にあるシロクロコロブスの群れにも出会えた。
左上:レッドテールモンキー
警戒すると「コ、コ、コ、コ、コ…」と鳴く
右上:ブルーモンキー
「くわっ!」と大きな声で一吠えし逃げる
左:シロクロコロブス
「ホホホホホホ!」と仲間に遠吠えする
植物では熱帯雨林らしく盤根の張りだした大木になるビワの仲間が多かった。それにウコンの仲間がたくさん実を付けていた。ケニアではここだけしかいない「グレートブルー・トゥラコ」という鳥は、アフリカ固有のエボシドリの仲間で果実食だ。きっとイチジクの実を食べに来るに違いない。ボクはヘンリーにお願いしてグレートブルーの良く見かける場所へ連れてってもらった。ビワの樹の下でしばらく待ってみたりしたが、さすがにそう簡単に見られる鳥ではないようだ。以前ここでは巣営も見られたという。
「物事は面白いもんだ。見たいと思ったときには見れなくて、どうでもいい時に見れたりするものだ」
と、ヘンリーは言った。そうかもしれない。ボクはもっと無欲になって環境全体を楽しむことにした。
少し小高い展望台に登る。山の上は陽当たりが良くて乾燥するせいだろうか。興味深いことに頂上付近では、マサイマラで見られる樹木がいくつが自生していた。
展望台より景色を眺める。原生林は小高い場所にある展望台の裏手でさらに高く鬱蒼と茂り良くわからなかった。そのかわり国立公園に指定されてから管理された二次林が見渡せた。所々には自然に出来た「クレイブ」と呼ばれる草原が点在している。さらに遠くには地溝帯の裂け目の一部である東部の「ナンディ・エスケープメント」と南部の「マウ・エスケープメント」が見えた。マウ・エスケープメントは、マサイマラを流れるマラ川の源流になっている。ここに立つことでボクはケニアの広さを少し実感できた気がした。
上左:Ficus Lutea, 大きな盤根が地表をはびこる
盤根は切り取られると家のドアになる。上右:「締めつけの木」とガイドのヘンリー
左下:Polycias fulda,
柔らかな木材なので、中をくり貫き、皮を張ると伝統太鼓として用いられる。
別の日、ヘンリーと滝を見に行くコースを歩いた。
歩いた場所は原生林ではなく二次林だった。こっちはこっちで見たことのない鳥が見られる。外来種のグアバが植林されており、サルが実を齧ったあとが良く見受けられた。
ヘンリーは鳴き声でどの鳥かを判断できる。ヘンリーに、何故森の鳥はサバンナより鳴き声が奇麗なのか尋ねてみた。しかし彼は比較したことがないので分からないという。ボクは個体同士が視界の届かない森では、肉眼ではなく鳴き声でお互い個体識別しているのではないか。そのために鳴き声が多様化したのではないか。と考えを伝えると、
「確かにそうかも知れない。興味深いことを教えてくれて有り難う」
と言われた。本当かどうかは確信ないけど、この森だけに300種類の鳥類がいるのだから、お互い仲間(配偶者)を間違えないように進化しても可笑しくない気がした。
グラッド(glade)と呼ばれるパッチ状に点在する草原地帯に出ると、暑い日差しに肌がチリチリした。森の中と開けた場所ではここまで体感温度の差があるのかと実感する。
ここではマサイマラのサバンナでも見かけるセッカやホウオウジャクの仲間、それにクマタカの姿も見られた。
森のある場所では、いくつかの種類の鳥達が一斉に鳴きあっていた。このようなスチュエーションでは鳥たち全員にとって脅威になる存在が現われている可能性がある。おそらくヘビだろう。しばらく観察していたが何がその場所にいたのはか僕らには分からなかった。
森が開けると、そこにちいさな滝があった
左下:キガタホウオウジャク
右下:シロハスミジロバト
二時間くらいの散策で「イシク滝」にでた。滝と言ってもただ水の流れ込みが早くなっているだけのところだった。日本の清流のように水は透明ではなく、マラ川と同じように茶色く濁っていた。きっと土壌に関係しているのだろう。
僕らはそこで半時ほどぼうっとした。カワセミやオオトカゲが現れることもあるという。でもボクはトンボの撮影に夢中になり、ヘンリーはずっと滝を眺めていた。彼曰くここは彼のお気に入りの場所で、何故だか分からないけれど水の流れを見ていれば一日中いても飽きることはないという。その気持ちはボクにもわからないでもなかった。
・3独り歩きへ