7月のサファリダイアリー、その3

26日、
[7:55、ムワリム]
ミリマタツゥのプライドのオスが1頭で寝ていた。
他のオスライオンと違い、このオスはいつも神経質だ。今朝も車に囲まれたことにより、身を伏せてじっと車の動向を見つめていた。
4台の車のうち、一番近い場所に停まっていた車のルーフより大きく身を乗り出すようにして写真を撮る白人がいる。その行為にドライバーが注意するより早くオスライオンは威嚇の慟哭をし、くるりと向きを変えると移動を始めた。
朝日を浴びてのんびりしたかったろうライオンのことを思うと気の毒になった。

[8:15、ミリマタツゥ]
運良く、たった今トムソンガゼルを仕留めたばかりのチーター家族に会った。3頭の子供を連れているチーターだ。
先日もこのママチーターが獲物を捕まえて食べている場面を見かけた。これだけ大きな子供を3頭も養っているのだから、このママチーターはよほど狩りが優秀なのだろう。


[9:25、ミリマタツゥ]
今月始めに開かれたマネージャーミーティングで公園長が話していた通り、計画的な「野焼き」がマサイマラ南部で行われて10日ほどたった。その範囲はかなりの広さで見渡すかぎり黒い荒野が一帯に広がっている。
しかしよく見ると、すでに新しい草が芽吹き始めていた。そのわずかな緑を求めてシマウマやトピ、トムソンガゼルが集まっている。
開けた草原は捕食者に狙われにくいというメリットも草食獣にあるだろう。見ていると乾いた草原より次々と草食獣が黒い荒野に向かって歩いていた。

わずかな草に集まる草食獣。それでも危険が潜む草丈の長いところよりまし?


27日、
例年なら15日頃より始まる動物大移動だが、今年はその動きがまだ見えない。ケニアの「ネーション」という新聞では、例年と同じつもりですでに「大移動が始まった!」なんて誤った掲載をするものだから、各ロッジでは非常に迷惑を被っている。
その動物大移動の動向が気になって、車を借りきって様子を見に出かけた。やはり情報だけでなく、自分自身で確認しなければ気が済まないのだ。

ミリマタトゥと呼ばれるマサイマラ南西部の国境付近は頻繁に観察し、まだ大移動がやってきていないのを確認しているので僕らは遠すぎて滅多に出かけない南東部をめざした。
しかしこんなときに限ってミリマタツゥでチーターに会ってしまう。無欲の幸運はすごい。

[7:38、コーナマローリ]
最初に会ったチーターは2頭の子供を引き連れたママチーターだ。子供と言ってもすでにママチーターと同じサイズをしている。
観ていたら、突然目の前の木に子供が登りだした。まさかこんな垂直の木に登るとは思ってもみなかったので驚いた。

[8:12、ミリマタツゥ]
次に会ったのは、昨日食事をしていた3頭の子供とママチーターだ。
日光浴をしていた子供の1頭が僕らの車を見かけると、何の迷いもなくやってきてボンネットに乗り上げた。
そうだった。この子供達はロッジの車が好きなのだ。今までも何度も登っていることを思いだした。
子供チーターはひとしきりボンネットの上で匂いを嗅いで納得(?)した後、今朝はボンネットだけでは物足りないようでルーフに前脚をかけた。
すぐそこにチーターの小さな顔があってボクは緊張した。腕だけ伸ばしてチーターの写真を撮った。
ルーフの上に乗ってくれるかなと期待していたが、しばらく前脚をかけてルーフのふちを齧るだけでやめてしまった。

登りたそうな顔をしてこちらを見つめてると思ったら、

やっぱりボンネットに飛び乗った


ルーフから腕だけ伸ばして撮った写真。屋根に上ろうとする子供チーター

チーターが車に乗るのには、ある程度の条件が必要なのに気付いた。
まずはお腹が満たされていて餓えていないときだ。この家族は昨日食事をしていたので今日は獲物を捕らなくても元気が余っているのだろう。
もう一つの条件は、朝の涼しい時間帯だ。日中暑くなると活動をやめてしまい、樹の下でひたすら休息を始めてしまうからだ。
チーター好きが多い日本人がこの場面に遭ったら、きっと嬉しくてたまらないだろう。

[8:28、ムワリム]
またまた次にあったチーターは、この辺りを統括(?)しているオスチーターだ。今までは「二枚目」と読んでいたが、今度から「ダンディ」と呼ぶことにしている。
ダンディはいつ観ても威風堂々としている。サファリカーを一瞥することも耳を傾けることもなく、彼は何処か遠くを見つめていた。

オスチーターの「ダンディ」はいつも落ち着いている


するとおもむろに歩きだした。視線の先に草食獣の群れがいたのでハンティングを仕掛けるのでは、と思いしばらく後方から双眼鏡で観察していたが、なかなか動き出す気配が見られなかったので諦めた。そういえば、もうダンディに出会ってから4年以上過ぎているのに彼のハンティングシーンは見たことがなかった。よっぽど狩りに関しては慎重派なのだろうか。

[10:20,サベイ]
僕らは本来の目的である「動物大移動探し」へ戻った。
マラ橋を越え、ナロック自治体へ入る。
ここもそうとう乾燥し、煤けた草原地帯が広がっていた。首を伸ばすキリンを時々観察するくらいで、他の動物の気配がない。
どのくらい走っただろうか、「サベイ」と呼ばれるその一帯は「ユニコーングラス」と呼ばれる2mほどになるイネ科の草本が広がっていて、ボクは天井ルーフから顔を出していた。
すると遠くに大きな黒い塊が見えた。ヌーの群れだ。近づいていく、シマウマも少し混じっていて全部で500頭くらいいる。
ドライバーは2日前、この付近でこの群れがタンザニア側にいるのを見ていた。これがようやくマサイマラに入ってきた「大移動第一群」のようだ。
ボクは嬉しくなって、写真を撮り観察をした。
一塊になっている群れは統率がとれているように見えた。新しい土地へ出陣する第一群は、開拓者のように結束が固いのかもしれない。
車に警戒したのか、少しずつ移動を始めた。目の前をヌー達が一列になって通り過ぎていく。「ヌー、ヌー」と鳴く、彼らの合唱を久しぶりに聞いた。

例年通りなら、この東南から入ってくる大移動は北上を続け、しばらくしてから西側に入り南下して戻っていくという「反時計回り」の移動をする。
このぶんだと僕らのいるマサイマラ西部に本体がやってくるのは、あと1ヶ月後くらいではないだろうか。

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