17日、
朝食のお弁当をもって半日サファリに出かける。狙いは動物大移動観察だ。昨年はタイミング良く最初の大移動の群れに遭うことができたので期待に膨れる。3日ぶりに訪れたマサイマラでは南部で大規模な野焼きが行われたあとだった。残念だが動物大移動の時期には早すぎたようだ。例年だと野焼きの数週間後に新しい草を求めてヌー達がやって来る。
この黒い野原にクロサイのハナ子が独りでうろついていた。ボクはみんなに何故ハナ子が1頭になってしまったのか話をしてあげた。
国境の石でセレンゲティとマサイマラのお話
(昨年の写真)朝食をいつものイチヂクの樹の下で食べた後、レンジャーと一緒に少し歩いて国境の境界線まで向かった。生徒達はケニアだけでなくタンザニアの大地をちょっとだけ踏みしめることができて喜んでいた。日本は島国なのでこういう経験は貴重だろう。
国境からの帰りには運良くチーターの食事風景に出会えた。3頭の子供がいる家族だ。
食事中のチーター親子
みんながしきりに写真を撮るので、ボクはわざとチーターの目の色は何色か?とか肉球の話をしてなるべく双眼鏡を握らせた。食べられているトムソンガゼルのオスの目が緑色に光って奇麗だった。
そこへ3頭のハイエナがやってきた。観察している僕らの車のまわりをぐるぐるまわりながらチーターの様子を窺っている。ママチーターもハイエナに気付いて、警戒しながらも食事を早めた。
僕らの車が離れたあと、ハイエナがチーターの食べかすを奪ったそうだ。午後はマサイ族と川沿いのネイチャーウォークをした。マサイ族が伝統医療として利用する植物を紹介しながらの散策だ。
生徒は3グループに分かれ、ボクは男子チームをガイドした。
一番最初に歩く前の注意事項として、猛毒ヘビの話をする。先日、蚊に刺されて心配性になっていた高一男子の顔色が変わった。
「え、そんな話聞いてないよ!本当に噛まれたらどうするんですか!?」
「噛まれたら15分で死ぬので、それまでに遺書を書いて下さい」
ボクが真剣にそう答えると、それからのネイチャーウォーク中、彼はずっとボクの後ろにぴったりとくっついて歩いた。そして時々「まだ終わらないのですか?」と囁く。ちょっとやりずらかったけど、素直でイイコだ。
マラ川でカバ観察
マサイレクチャラーのエドワードがゾウの足跡のサイズを自分の足のサイズで比較する
初日から野外活動を盛り込みすぎてしまったらしい。高一女子生徒が1人気分が優れなくなってロッジで休むことになった。早朝サファリの寒さと日中の散策の暑さが堪えたのかもしれない。
あとから聞いて驚いたのだけど、女子テントの数グループは寝袋の使い方がわからず、布団のように身体にかけて寝たという。それでは寒くて体調を壊すわけだ。
今の子供達は寝袋の使い方も知らないとは思わなかった。今度から、キャンプサイトについたら最初に「キャンプのしかた」について説明しなければいけないだろう。夕食の後はシャワーだ。スタッフが薪とドラム缶でお湯を作ってくれ、それをタライに入れて身体を洗う。ちょっと寒いけど天井がぬけた敷居での水浴は気持ちいいだろう。
時間を持て余す生徒達は焚き火に集まって雑談を始める。最近は都会ではなかなか焚き火が出来ないと聞く。みんな火の付いた薪いじりに夢中だ。中二の男の子だけ焚き火の光で懸命に小説を読もうとしていた。18日、
午前中は何処にも出かけずキャンプサイトで講義があった。
最初はスワヒリ語レッスンで、日本語堪能のケニア人ナチュラリストチェゲさんが講義をする。
チェゲさんの語りはテンポが良い。そしてみんなを乗せるのが上手いのでそれに合わせて生徒達は次々と単語を覚えていった。さすがこういう暗記をさせると学生はすごいと思う。
後半は昨年に続きわざわざお越しいただいた涌井教授によるサバンナの仕組みについての講演だった。
ランドスケープアーキテクトの涌井教授の講義は少しむずかしかった
チェゲさんのスワヒリレッスンはリズム感がある
心配性の男子生徒が腕を押さえてやってきた。「骨折したかも知れない」という。なんでも野生教室に参加する前に痛めていて、昨夜友達とふざけてまた痛みが悪化したという。本当に骨折したならもっと大げさになっていると思うのだが、まずは彼にどうしたいのか聞いてみた。フライングドクターを呼んでナイロビに戻るか尋ねると、その必要はないという。だからロッジに常勤しているケニア人ナースを呼びテーピングをしてもらった。
午前中しっかりとスワヒリ語を覚えたところで午後はマサイ村を訪問した。
たくさんのママ達の歓迎を受ける。今年もレクチャラーのエドワード・サデラによってマサイ族の伝統や仕組みなどを説明してもらう。実際に家の中に入ったり、火起こしの体験もする。
今回の見どころとして、特別に牛の血を取る場面を見学させてもらった。牛の血はマサイ族の生活における貴重な塩分、ミネラル、ビタミンの補給になる。
マサイ村の訪問は価値観の違いを知る良い勉強だ
牛を押さえつけ、首から採血するところ
みんな興味深々
長老の一人が特殊な「深く刺さらない矢」で押さえられたオトナ牛の動脈を射ぬく。しかし上手く刺さらず何度か繰り返すことになり、その度に何人かの女生徒がキャーっと騒ぐので、うるさいやつは見ないでくれ!と怒鳴った。
ボクはマサイ村に行く前に「異文化を訪れるときは自分の価値観を持ち込まない」というルールを説明していたので、それからはみんな真剣に見学してくれた。
動脈からあふれ出す血をヒョウタンに注ぎ入れて、戦士達はそれを美味そうに回し飲みしだした。生徒達に血を飲みたい人の希望を聞くと、みんなこぞって手を伸ばしてきたのにはちょっと驚いた。こういうときの好奇心は大人以上だ。
最初にボクが飲んで見せる。塩味の利いた生暖かい濃厚なスープのような味がして美味いと思った。生徒達は「鼻血の味がした」「飲んだ後、吐きそうになった」などの様々な感想を述べ、笑った歯が真っ赤だった。最後にマサイママ達が恒例の「お土産屋」を開いてくれた。
ボクは訪問前に「お土産は絶対交渉しなさい」と言ってあったので、みんなマサイ族とカタコト英語で値引きを始める。
案外マサイママ達が「プリ〜ズ、アイム ア チャイルドー!」というお願いに弱いので微笑ましくなった。
最後まで交渉を頑張っていたのは中学男子だった。彼は初日にナイロビ郊外のお土産屋さんで騙しとられていたので、今度は負けない、と気合いが入っている様子。みんなが車に戻り始めたのにしぶとく交渉を続け、ついに格安でビーズ装飾がほどこされた一本の杖を買った。みんなに「たいしたものだ」と褒められ、それ以降その杖をいつも持ち歩いていた。