ムシアラのプライドを救うものと養われるもの
[15:50,ムシアラ]
ムシアラのプライドに会いに行く。数えると22頭いた。
暑く乾燥していた3月の中旬、ここの10頭を越える子供達はいつ死んでもおかしくないくらい痩せ衰えてしまっていたのを憶えている。
ネコ科であるライオンのプライドは、普通ナワバリの外まで移動することはない。だからナワバリの中に狩りの対象となる獲物が少なくなると餓えてしまう。
多すぎるようにも思えたムシアラの子供達は、自然の脅威によって淘汰されてしまうのかと思っていた。しかしこのプライドを救ったのは「ロイタ・ポピュレーション」だった。
ロイタ・ポピュレーションは、マサイマラ北部に住む千頭を越えるヌーとシマウマの草食獣の集団で、小さな移動を繰り返している。
この時期、南部のセレンゲティからマサイマラへやって来る大集団「マイグランツ(移動者)」に会うために、ロイタポピュレーションが南下してきてちょうどムシアラのプライドのナワバリに入ってきたのだ。
ヌーやシマウマという大型の草食獣を仕留めることができれば、大きなプライドでもみんな満腹になるまで食べることができるだろう。一時期に比べみんな太っていた。今日も何か獲物を食べたらしい。ライオンたちは草原でノンビリとしており、その顔の回りには獲物を食べた後見られるようにハエが顔の回りに無数たかっていた。
顔にたかるハエをナスの葉っぱで追い払う子供
このムシアラのプライドを観察していてボクの興味の対象になるのは、遊び盛りの子供達の面倒を見ている「パラオ」と勝手に呼び始めた若いオスライオンの存在だ。
パラオはこの大きなプライドのボスである「ソロー」と呼ばれるオトナオスの息子だ。
パラオはタテガミが生揃っているので3歳以上と思われる。ふつう3歳以上になればオスは性的に成熟するので、生まれたプライドを離れ独立し自分のプライドを確立するのが習性だ。でもこの息子は何故だかこの大所帯の群れを離れようとしていない。そして獲物を捕らえる群れのメス達に養ってもらっている扶養家族なのだ。つまり今日本でも問題(?)になっている「パラサイト」なオスので「パラオ君」なのだ。
狩りをして食べ物を調達するのがメスライオン、群れとナワバリを守るのがオスライオンの仕事、といったように分担で群れを維持するのが一般的なプライドだ。そしてパラオを見ていると、どうも彼の役目は「子守」らしい。
パラオ君のなかなか凛々しい横顔
ボクはこのプライドのメス達がハンティングに出かけて不在の時、パラオが子供達のもとに留まって一緒にいる所を何回か見ている。子供達ともとても仲が良いらしい。今のようなのんびりしているとき、頻繁に子供達がパラオの元にやって来ては戯れあったり、顔をこすり付けあったりスキンシップをしている。
確かに考えると、10頭以上もの子供達を育てるのは大変な労力だ。子育てはメスの仕事だが、獲物を狩る役割に追われたらハイエナのようなライオンの子供を狙う天敵をから守る者が必要になるだろう。それをパラオが引き受けたのかも知れない。その代わりパラオは独立して生活するより楽に獲物にありつけることができるのだろう。パラオはムシアラの大集団家族の維持を支える重要な役割を果たしているとも言える。
そう考えれば彼はこのプライドにとって必要不可欠な存在になるので「パラサイト」という言葉は適さないかも知れない。でもパラオという呼び名が気に入ったので、これからも愛着を込めて観察していきたい。