川渡りのポイント
マラ川にはいくつかの「川渡りのポイント」がある。大移動を繰り返す動物達が川を渡るために利用する岸だ。
有名な「ヌーの川渡り」は、マラ川の何処でも気の向くままに渡るものではない。マラ川は季節で水量の変化が激しく、ほとんどの場所は絶壁のように岸が水流で削れ、飛び込むにはあまりに無謀なのだ。
「川渡りのポイント」は川の縁がなだらかで比較的降りやすく、普段は草食獣が水を飲んだり、カバが夜岸に上がるための場所であったりする。[10:00、セレナ]
ある川渡りのポイントで、300頭ほどのシマウマの群れが対岸に集まってきている。ヌーの姿は少ない。
僕らのいる手前の川辺には、先に渡ってきたのだろうか3頭だけのシマウマが対岸を見つめ群れを呼んでいるように見えた。
渡るだろうか?
しばらく見ていると、対岸の群れは徐々に川辺に近づいていった。でもそこには大型のクロコダイルが5匹も「待ってました」とばかりにウヨウヨしていたので、また引き返していった。
そして群れは別の方向へ向かって歩きだす。行く手の上流には、別の川渡りのポイントがあった。
別の川渡りのポイントを探すシマウマたち
わかっているのか、手前の3頭のシマウマもまるで群れを誘導するようにそちらへ向かって歩きだした。
僕らの他にはサファリカーがいない。僕らは先回りして、上流の川渡りポイントへ向かう。ここは対岸が林に覆われて移動しているはずのシマウマの姿は見えない。
「ワンワン!、ワンワン!」
手前の3頭のシマウマが、姿の見えない対岸の群れに向かって鳴き交わしている。
どどどどどっと、シマウマが駆け足する音が聞こえてくる。犬のような鳴き声と共にその音はしだいに大きくなってきた。
対岸の様子はよく分からないが、林の中で右往左往して「川渡りポイント」を探しているようだ。ぼやんやりと砂煙が上がっている。
無数の生き物が、もうすぐそこまで来ているのを肌で感じた。待っているボクの心臓の躍動が高まる。
[10:50]
そして対岸の林の中から、先頭のシマウマが姿を現した。岸を降りると、そのまま躊躇なく水に入りだした。すぐに深くなっているようであっというまに身体が沈んで首だけが水面から浮かび、泳ぎ始める。後に仲間達が続いた。
渡り始めるシマウマと、対岸で仲間を呼ぶオスシマウマ
川幅は20mくらいだろうか、渡り終えた場所にはちゃんと先ほどの3頭が迎えに来ていた。感動の再会だ。鼻と鼻を合わせ、まるで称えあっているようだ。
その間にも次から次へとシマウマが川へ入る。途中から同行していたヌーたちも川を渡り始めた。
シマウマに混じってヌー達も渡り始めた
シマウマとヌーの泳ぎ方はだいぶ違うようだ。シマウマは水の中にザブザブと入っていき、水中で並足をするように(実際見えないけど)安定した早さでスイスイと泳ぎきってしまう。一方ヌーは、まず水面をじっと見つめる。そしてまるで競泳選手のように高く舞い上がり水へダイブするのだ。
恰好良いといえば格好良いが、跳ね上がる水飛沫があまりにもでかくて、自分自身で起こした水飛沫にたまげている風である。その後パニックに陥ったように全身を水面から飛び出すようなバタフライに似た泳法で、必死に対岸を目指す。
ヌーの身体の作りはシマウマに比べて華奢で、泳ぐには足が細すぎる気がする。
実際、ボクは泳いでいて足を折ったらしいヌーを見かけたことがある。そのヌーは岸から上がることが出来ず、水辺に腰を降ろしたまま首だけキョロキョロ動かして、いつかやって来る捕食者に食べられるだけの悲しい生き物になっていた。
別の場所でも川渡りが始まったが対岸に上り口がなくて引き返してきた
一心不乱に飛び込むヌーと、泳ぎの上手いシマウマ
それでもヌーたちは川渡りを止めようとしない。シマウマと一緒に一生移動を繰り返すつもりのようだ。
自然界にはボクの想像を超える出来事が無数にあることを感じながら、今日も川渡りを眺めた。
今年の動物大移動はまだまだ始まったばかりだ。