チーターの教育実習

[9:35、バグダット]

子供たちの追いかけっこ


「チーターを観たことがない」
というゲストからのリクエストに答え、僕らは探してタンザニアからやって来た耳に黄色いタグを付けたチーター親子を見つけた。
2頭の子供たちは緑の草原で元気一杯追いかけっこをしている。
尻尾でバランスをとりながら巧みに方向転換して走り回る。取っ組み合う。噛む(振りをする)、蹴る。それらの行動はいわば攻撃行動だ。兄弟で遊ぶことは近い将来、自立して生きていくために必要な「狩り」の練習になるのだろう。

取っ組み合い

多彩な動きに魅了されてボクは夢中でチーターの観察をしていたけど、ゲストは遊んでいるところではなく真剣に走るハンティングを観たいようだ。
しばらく待つこと、さっきまで寝そべっていた母親が動き出した。
チーターたちの表情が締まる。
草丈の短い草原に50頭ほどのトムソンガゼルの大きな群れがいた。
隠れる場所の無い草原なのでトムソンガゼルたちはすぐにチーターに気づき、警戒して一斉にチーターを見つめた。
母親は小走りにトムソンガゼルに近づく。慌てたトムソンガゼルの群れは二つに別れた。そこで全力疾走を始めたのは子供チーターだった。
子供チーターはなかなかのスタミナでトムソンガゼルを追いかけながら丘の向こうへ消えてしまった。
しばらくすると、子供はしょぼしょぼと手ぶらで帰ってきた。ハンティングは失敗したようだ。
失敗はしたけど、全速で走っているチーターを観れたのだからゲスト達はラッキーだろう。

[10:37]
陽が高くなってきたので子供チーターたちは休息を始めた。でも母親は失敗した狩りに未練があるのか、まだアリ塚の上で辺りの様子を窺っている。
もうそろそろこの場所を離れようと思ったときだった。
母親チーターが周りで観察しているサファリカーの方へ足早に向かってきた。
母親の進行方向には、じっと隠れていたトムソンガゼルの赤子がいたのだ。あまりにもじっと動かないので、近くにいたサファリカーの誰も赤子の存在に気づいていなかった。
逃げようとした赤子はチーターに容易く脚を引っ掛けられ転ばされ、か細い断末魔とともにあっという間に絶命した。
母親チーターは最初から、最近ベビーラッシュしているトムソンガゼルの赤子を狙っていたようだ。うれしそうに子供たちがやってきて、母親にまとわりつき獲物のおねだりをした。

トムソンガゼルの子を捕らえた母親と、ねだる子供たち


母親の頭脳プレー勝利といったところに感動していると、ゲストの独り言が聞こえてしまった。
「可哀相…」
・ ・・・・・・・・・・確かに食べられてしまったトムソンガゼルの赤子は気の毒だ。
でも毎日を生きるために飢えと戦いながら獲物を探さなくてはいけないチーターも大変じゃないか。
とは、ゲストに言わなかった。

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