だるまさんが、ころんだ

[8:40、Wクロッシング]
メスライオンが1頭休んでいる。近くに仕留めたらしいヌーの死体があった。もうすでにお腹一杯で食べきれないようだ。メスライオンが動かずにいると、数十羽のハゲワシとペアのジャッカルが「待ってました」とばかりに死体に群がった。遠巻きにハイエナ達も集まり始めている。
一番最初に獲物に食らいついたのはジャッカルだった。彼らは観察している観光客を乗せたサファリカーを気にせずにどんどん近寄ってきて肉切れを漁り始めた。

獲物を真っ先に奪ったセグロジャッカル


しかし5分もしないうちにたまりかねたハゲワシたちが集団でジリジリ近づき、獲物の周りを取り囲んでしまった。夢中になって肉切れを齧っていたジャッカルは振り向くと、すぐそばで今にも飛びつきそうに肩を怒らせているハゲワシがいて驚き逃げ出した。
ハゲワシたちへ肉の優先権が降りると、今度がハゲワシ同士で闘争が始まった。
今ここに集まっているハゲワシはミミヒダ、コシジロ、マダラ、ズキンの4種類だった。数で圧倒しているのはコシジロとマダラだが、体格がでかいミミヒダがやはり強いらしい。3m近い翼を広げて威嚇すると、他のハゲワシたちはすぐに退き大きな肉の塊を譲った。他の肉にコシジロとマダラが群がり鳥山(この言葉があてはまるのか?)となる。威嚇するもの。鳥山の中に突進していくもの。仲間を突くもの。仲間から肉を掠めるもの。鳥山から撤退するもの。
ハゲワシの食事風景はいつも真剣で騒々しい。そして観ていて飽きない。

メスライオンが獲物を気にし始めた

傍らで休んでいたメスライオンが立ち上がり、獲物の場所へ向かってきた。
近くまで来るとハゲワシを追い立てるように駆け出した。驚いたハゲワシが一斉に飛び上がる。30羽以上のハゲワシが同時に羽ばたいたので、激しく打ち立てる翼の音とともに煽られた風が僕らの方まで吹いてきた。

逃げ去ろうとするハゲワシ


それでもハゲワシたちは遠くまで逃げなかった。すぐに着陸すると少しだけ獲物に間隔を置いて、じっとライオンの動向を観察している。
しばらくライオンとハゲワシのにらみ合いがあったが、メスライオンそのものに獲物を食べる気が無いらしく、ハゲワシを驚かせただけで元いた場所へ戻り始めた。
メスライオンが背中を見せると同時に、ハゲワシたちは一目散に獲物へ駆けよろうとした。
はっとしたメスライオンが振り向くと、ハゲワシたちは走るのをピタッと止めた。メスライオンがにらんでいる間、ハゲワシたちはみごとに微動だにしなかった。それはまるで「だるまさんがころんだ遊び」のようだ、と思った。


「だるまさんがころんだ」が始まった


またメスライオンが歩きだすと、ハゲワシたちは獲物に辿り着き騒がしい食事風景を再開した。
するとメスライオンが何か思い出したように、また獲物へ戻ってきた。ハゲワシはまた空へ一時舞い上がった。メスライオンはしばらくハゲワシをにらむと、また背中を向けて移動を始める。しかしまた獲物が気になって、駆け戻ってくる。なんと、この同じ行為を3度もライオンは続けた。
お腹が一杯で食べきれないのはわかっているけど、ただでハゲワシに譲るのはライオンとしてプライドが許さないのだろうか。ボクはライオンが食事中に、傍らで要領良くジャッカルが肉片をかすめ取る場面を目にしたことがある。なんだかライオンはジャッカルに寛大なところがあるようだ。しかしハゲワシとハイエナは執拗に追い払うことがある。とにかく生理的にハゲワシたちが憎たらしいのかもしれない。

メスライオンは3度「だるまさんがころんだ」をしたところで面倒くさくなったのか、本当に獲物を放棄した。今度は一度も振り返らずに何処かへ移動を始めた。きっと暑くなってきたので水場か茂みへ休息に向かったのだろう。
ハゲワシたちはそれでもまだライオンの動向に目をくばり注意しながら食事を始めたのをボクは観察した。
ライオンが完全に獲物を諦めたのを知ると、今度は遠巻きに観ていたハイエナたちが駆け寄ってきた。

こちらはハイエナとハゲワシの「綱引き」

ハゲワシたちはライオンほどの警戒は見せないが、やはり力で勝てない相手と理解しているらしく獲物から身を引いた。獲物と言ってももう骨と皮しかない。それでも何でもかみ砕いて消化してしまうハイエナにとってご馳走といえるだろう。
ハゲワシたちが物欲しげに見つめる中、ハイエナたちは各々足をくわえて持ち去ったり、皮を引っ張り合い引きちぎって持ち帰って行った。
こうやって、毎度の草原のお掃除が今日も終わった。

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