10月のサファリダイアリー、その6

24日、

野火の後の緑の草原に停滞中の大移動群

緑の草原へ向かうヌーの列

[6:30、モラム上よりJギラレ]
野焼きした草原にヌーとシマウマが集まり始めている。
国境付近まで南下していた「動物大移動」が、マラ・トライアングルに戻ってきてしまったのだ。
本来ならヌーもシマウマもこの時期、もうタンザニアへ戻っていておかしくない。でも世界的な季節変動と人為的な野火のせいで、動物大移動はまだマサイマラに停滞している。
マサイマラの観光業にとって、ヌーの大群がまだ観られるのは嬉しいことだろう。だけどセレンゲティ・マラ地域の生態系にとってこの状況は好ましいとは思えない。今後この変化がどのような形で環境に影響を与えるのか。

[7:11、カルバート]
最近この辺りをウロウロしている4頭の若オスライオンのうちの2頭が道路の側で休息している。無線の連絡によると、あとの2頭もそう離れていない場所で休息しているそうだ。
彼らの通称は「バルバル4」だ。バルバルというのはスワヒリ語で「若くもなく、年寄りでもない」年齢をさすらしい。
確かに体格やタテガミから判断すると彼らは4〜5歳くらいで、人間で言うと30歳前後くらいだろうか。

「バルバル4」の1頭。
タテガミの生え方で生後4歳くらいだと思われる

バルバル4はまだ自分の決まったナワバリとメスを持たないノマドだ。
今居る場所は「兄弟オスライオン」のナワバリでもある。最近兄弟オスライオンのメスたちが発情しているので、匂いに寄ってきたのかもしれない。いつかバルバル4が兄弟オスライオンと出会ってケンカになるだろう。

[8:48、マラアクロスP]
川渡りの有名なポイントには観光客のサファリカーもなければ、渡りたそうに水面を見つめるヌーたちもいなかった。実に静かで平和な場所なので、車の中からマラ川を見ながら朝食をとった。
水際に3〜4mほどのサイズのクロコダイルたちが、いかにも暇そうに日光浴していた。

静かなマラ川のほとり
左側に2匹の大きなワニが休む

そういえば最近は大きな川渡り情報を耳にしない。大方の大移動群がすでに川を渡ってマラ・トライアングルの緑の草原に停滞しているからだろう。
そしてドライバー情報によると、最近の川渡りは小集団で短期で行われるそうだ。
小集団で渡る理由を考えると、まずは雨が降らないのでマラ川の水位が下がり容易に渡れるようになったためだ。ヌーたちが大集団で川を渡るのは、臆病な動物だから集団になって危険な川を渡る意欲というか、志気を高めているとボクは思う。一種の集団パニック状態とも言える。
もう一つの理由は、川渡りを見物する観光客が少なくなったのでそれほど緊張しないで済むようになったからだろう。
ヌーの川渡りを待つ何十台ものサファリカーは、時として渡りやすい川渡りポイントを封鎖してしまうことがある。それによってヌーたちはストレスを感じ、渡りにくいポイントに集まらざる得ない傾向があり、そこで集団パニック状態になりながら水に飛び込む。
今年は例年よりマラ川で溺死するヌーが多かった、と保護区管理局のレポートにも書いてあった。原因の一つは観光のインパクトのせいだと思っている。

[10:15、セレナ]
草丈の短くなった草原を行くと、草食動物の死体をよく見かける。
草が短いので見つけやすいという理由のほかに、肉食獣が頻繁に獲物を狩り、仕留めた獲物を食べきれずに残すからだ。ふつうならそんな食べ残しの獲物をハイエナやジャッカル、ハゲワシと言った腐肉漁りの動物達が片づけてくれる。でも彼らもお腹一杯らしく、骨にされる前に皮ごと残って乾燥した死体が転がっている。今、マサイマラは飽食状態なのだ。

[10:24、セレナ]
10頭ほどのゾウの群れが一直線にマラ川へ向かっている。ゾウの川渡りが観れると思ってしばらく様子を見ると、いつもの川渡りのポイントではない茂みの中へ入っていってしまった。あそこでは車から観察できない。
ああやって毎日同じ行動をしているように見えて、少しずつ変化を取り入れて環境にインパクトを与えないようにしているのかも知れない。

水場大渋滞
[11:00、マジヤプンダ]

25日、
[7:24、モラム上]
兄弟オスライオンが2頭並んでゆっくり歩いている。時々樹の根元にオシッコを引っ掛けた。ナワバリの見回りだろう。2頭ともお腹が一杯ではち切れそうだ。

サファリカーを気にしないで道路を悠々と歩く


兄弟オスライオンがやって来た方向にはプライドのメス達が休んでいた。やはりお腹一杯で苦しげだ。
見ると大きなバッファローを食べた跡があった。さすがにオトナライオン5頭でも全て食べ尽くせなかったらしい。バッファローの胸から上がそっくり食べ残してあり、ハゲワシたちが懸命に突いていた。

[7:57、Jギラレ]
先日からずっと動物大移動中のヌーたちが北上をしている。みんな野火の後の新鮮な草を求めて歩いているようだ。
これだけのヌーの大軍に囲まれてしまうと壮観だ。単体でいると何だか頼りないヌーだけど、こうやって大軍になると畏敬の念が出てきてしまう。無条件で彼らはたいした奴等だ、と思ってしまう。

緑の草を求め北上するヌーの大群

[8:38、ギラレ]
「バルバル4」と呼ばれる若オス4頭のノマドが歩いている。
彼らも食事したようでお腹がパンパンだった。何を食べたのかは不明だが、きっと至る所に停滞している動物大移動群の1頭を捕らえたのだろう。
若オスライオンたちは荒い息を吐き時々木陰で休息しながらも、タンザニア側のオロオロロの丘の方へ向かって進行していく。そこには沢があるので水を飲むつもりなのだろう。

[11:19、マジヤンデゲ]
今日も暑い。湿原にはヌーたちで溢れ返っていた。
ヌーはこの湿原が危険ではないことを学習したらしい。今日はみんな躊躇なく水に浸かり休んでいた。

この湿原はヌーのお決まりの水飲み場になった

[11:33、マジヤンデゲ]
湿原に20頭ほどのゾウの群れがやってきた。ゾウたちは湿原の泥を身体にかけて泥パックをすると、急ぎ足で森の中へ入っていった。
こうして観察を継続していて、思うことがある。

森から出てきたゾウの群れ

動物大移動がやって来る時期、ゾウの群れに会う頻度が少なくなるのだ。もしかしてゾウはヌーが嫌いなんじゃないか。
ヌーの群れがこぞってやって来ると、ゾウの食べる平原の草が無くなってしまうのは事実だ。それにそばであれだけの数のヌーにウロウロ取り囲まれてしまうと、あんまりいい気持ちはしないのかも知れない。だからこの時期はいつも以上に山の上に登って避難したり、日中森の中で過ごす時間が長くなるのではないだろうか。
その他にも、聞いたことはないけどヌーからゾウに感染する病気が存在してもおかしくない。そういえば、マサイ族はヌーがやって来ると家畜の牛に感染する目の病気が移ってしまうとかで避難させる。
ドライバーにそのことを話すと頷いた。
「ゾウはヌーの合唱が嫌いかもしれないね」
誰かゾウとヌーの関係を知っている研究者はいないのか。

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