12月のサファリダイアリー、その3

19日、
[7:28,セレナヒポ]
マラ川の上流ではまとまった雨が降っていないようだ。川の水位がかなり減っている。
ヒッポープールのカバの群れは全身が水に沈めなくて、背中を丸出しにしていた。
別の場所の単独カバは僕らの車が近づいても、隠れる水辺が無くて地上で放心していた。

水位がかなり下がってしまったマラ川

[7:38,km4前]
明け方捕らえたらしいヌーを引きずっているオスライオンを見つけた。マラ・トライアングル南部をナワバリにしている13頭のプライドのうちの1頭だ。
オスのお腹は満腹で膨れている。そして引きずるヌーの死体がほとんど食べられていないところを観ると、そんなに空腹でもないのに狩りをしたらしい。
もう5ヶ月以上に渡ってヌーの大移動群がマサイマラに停滞している。それによりライオンたちの飽食状態は続いているのだ。

ヌーを運ぶ満腹気味のオス


そこより50mほど離れたガーデニアの樹の下に、仲間のオス2頭が休んでいた。ヌーをくわえたオスは、その樹の下まで持っていきたいのだろう。
さすがのライオンも体重150kgはあるヌーの死体を運ぶのは容易ではないらしい。数メートル運んでは、何度も口を放して荒い息をしていた。そしてオスライオンは水溜まりを見つけ水を飲んで一息つくと、ふいにヌーを見放して樹の下へ歩いていってしまった。
さっそく目敏いハゲワシが獲物を突こうとすると、樹の下ですでに休んでいた別のオスがやってきて、肉にまとわりつくハゲワシを追い払った。
このオスもお腹一杯で、獲物に近づいたが食べる様子はない。そしてヌーの死体を使って、戯れ始めた。爪を使って死体をひっくり返してみたり、ヌーの首に絡み合って、まるで獲物を捕らえた瞬間を再現して楽しんでいるようだ。

獲物で遊び始めた別のオス


それからようやく先程のオスと交代して獲物を運ぶ気になった。
ボクは捕まえた獲物を引きずって隠す行為をオスライオンでよく見かける。
オスはメスよりも重いものを運ぶ力が強いだけでなく、食べ物に関して卑しいように思える。それはつまり、オスは自分がハンティング下手なのを自覚していることにならないだろうか。

[16:05、マジヤンデゲ]
夕方、干上がった湿原にゾウの群れがいた。一年中湿原に生えている葦の仲間を食べに来たようだ。
干上がったと言っても表面だけで湿原の中は泥だ。体重のあるゾウが歩けば当然ズブズブと足が沈んでいく。粘着力のある泥に足を取られゾウは苦戦しているようだ。まずは鼻で土の硬さを確かめ、一歩一歩慎重に前進していく。足を引き抜くとき「ズボッ」と大きな音が立つ。
子供はさらに慎重だ。下手をすると、泥濘に全身はまり抜け出せなくなってしまうからだろう。母親の後をぴったりとくっついて歩いた。

[16:43、km4前]
早朝、ヌーの死体を運んでいたオスライオンは無事に樹の下まで運べたようだ。
ヌーは誰にも食べられないように、しっかりガーデニアの樹の下に保管されている。そのまわりで3頭のオスライオンは守るように1日中ずっと寝ていた。

樹の下には今朝隠したヌーがある

しばらくして、激しい突風と共に夕立が降りだした。
オスライオンたちはこぞってガーデニアの樹の下にもぐり込んだ。

[17:10,セレナスワンプ]
クロサイのハナ子が雨の中佇んでいた。サイは雨に濡れることをあまり気にしないらしい。食事をするわけでなく、鼻を持ち上げて風に運ばれてくる匂いを嗅いでいるようだった。
ボクは双眼鏡で、以前より張り始めた乳首を確認した。他のサイと比較することができないが、順調に妊娠しているように見える。来春には2世が生まれると思う。

20日、

[7:25,ムシアラゲート]
マラリアンダの橋を渡り、対岸のナロック自治区にサファリドライブへ出かける。
1ヶ月前に野焼きした草原は、2週間前までひどく乾燥していて埃まみれだったが、最近の連日の雨で新芽が育ち始めていた。
奇麗になった草原に4百頭ほどのシマウマたちが群れていた。この群れも本当は大移動群なのだろう。しかしこれだけ緑が豊富な草原がマサイマラにあると、大移動群はわざわざタンザニアへ戻る理由がなくなってしまうのだろう。

[7:38,コムチェゾ]
1頭のオスライオンが歩いている。この付近をナワバリとする大所帯の主「ソロー」だった。
お腹を一杯にして、苦しげに歩いていた。食事をした後なのだろうか、それともナワバリの見回りをしているのか。

威風堂々と歩くボスのソロー

[7:57]
ソローの進行方向へ先回りすると、茂みの中に同じプライドのメスたちがいた。オトナメス4頭のほかに、扶養家族である息子の「パラオ」の姿もあった。
本当はこの群れは26頭の大家族だが、いつも全員集合しているわけではないようだ。
それともボクが知らないうちに群れがバラバラになってしまったのかもしれない。
戻ってきたソローの姿を見ると、メスライオンの1頭は仕事から帰宅した主を迎えるように自ら近づき頭をくっつけ合って挨拶した。そしてお互いにぐるぐる回って相手の匂いを嗅いだ。メスライオンは嬉しそうにそばに横たわり、ソローも苦しげなお腹を出っ張らせながら休息に入った。

お互いに相手のお尻の匂いを嗅いで情報を得る

[8:17、クフコヤニョカ]
野焼きした草原は思ったより広範囲に渡っている。そして今は緑溢れる草原で群れる草食動物達が、とても幸せそうに見える。
眩しい草原に見とれていると、ドライバーはチーターの家族を発見した。
「クイーンの娘」と呼ばれるメスと、その子供たち3頭だ。ボクは会うのは久しぶりだった。子供たちは1歳になろうか。母親のハンティングが上手いらしく、子供たちはすくすく育っている様子。
観ると、1頭の子供が獲物をくわえていた。それはほとんど食べ尽くされたトムソンガゼルだった。

トムソンガゼルの残骸を取り合いっこする子供


もうみんなお腹一杯なのかと思ったら、そうでもないらしい。もう僅かしかない食べ物を求めて、子供たちは小さな唸り声を上げながら取り合いをしていた。さすがに子供3頭とも大きく成長すれば、母親の捕まえるトムソンガゼルの量では足りなくなってきたのかもしれない。
陽が高く登るに連れ気温が上がり始めると、サファリカーに慣れているチーター家族は僕らの車のフロントバンパーの下で休息を始めた。

母親もまだお腹が空いてるようだ。子供たちから食べ物を取り返すと、残っている骨に付く肉をゆっくり食べた。その間子供たちは奪おうとせず、じっと母親の食事を見ていた。実に行儀良い。
母親が食べ終わると、また争奪戦が始まった。と言っても、もう皮しか残ってない。子供たちは車の脇で皮を引っ張り合って「綱引き」をしているのが観れた。

少し離れたところで1匹のジャッカルがおこぼれに預かろうとじっとお座りしていた。チーターの行動をじっと見つめている。しかし気の毒だがこの分では彼の取り分はまったくなさそうだ。

おこぼれに預けなかったジャッカル

[9:32,パラダイス前]
野外で朝食を摂っていると、近くの枯木にライラックニシブッポウソウが留まった。
草原で普通に見られる奇麗な鳥だ。ライトブルーの翼を光らせて飛ぶ姿はさらに美しい。でもなかなか飛ぶ画像を収められなかった。デジカメはシャッターにタイムラグがあるので、いつも画像から逃げてしまうのだ。
今回は少し離れたところから、始めて飛んでいるところを撮れたので嬉しかった。

[11:07,マラ川]
雨はマサイマラで毎日部分的に降り続けているが、上流のマウ山地ではまだ纏まった降水が始まってないのだろう。以前としてマラ川の水量が少ない。
水底に沈んでいた倒木が姿を出し、そこに小範囲で移動を繰り返しているスキバシコウの一群が羽を休めていた。

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