ブラックマンバ
いつものようにイチジクの樹の下で昼寝しようとした。
樹の根元にある平たい石に寝そべって、ぼうっと上を眺める。ボクがここで休息をとると、決まってミズイロサンコウチョウがやって来る。尾羽を持ち上げて扇子のように広げながら左右に振るのだ。この動作は、ボクに対するディスプレイだ。最初の頃は求愛行動なのかと思っていたが、そうではなく、ボクという不審者に対する威嚇であった。
今日もミズイロサンコウチョウが2羽やって来て(つがいだろうか)、ボクの頭上でさえずりながら「尾羽振り振りダンズ」を披露してくれた。
それにしても、今日のダンスはいつもより激しい。どうしてだろうと注意して観ると、よく広がったイチジクの木の枝に、ゆっくりと動く蔦のようなものがあった。ヘビだ。しかもかなり長い。
英名:BLACK MAMBA
学名:Dendroapis polylepis
体長:2m、卵生
コブラのように高くかま首を持ち上げることができる。
最も動きの素早いヘビ。
ボクは興奮してロッジへ双眼鏡とカメラを取りに戻った。あまりに嬉しそうなボクの顔を見て、ロッジのスタッフもついてきた。
双眼鏡でよく見ると、肉眼で緑色に見えたのはヘビの下腹部だけで、背中は黒かった。しっかりしたアゴと長い顔、ブラックマンバだ。
ブラックマンバはコブラに近い猛毒のヘビだ。木登りが得意で、普通は樹上の鳥や雛を捕まえて食べるので、ここにいても不思議じゃないだろう。
恐いもの見たさでやった来たスタッフ達も、恐る恐るブラックマンバを眺めてる。
「カトー、こんな所で寝るんじゃない。危ないから」
と、注意された。ボクは思わず「何で?」と問うてしまう。
確かに噛まれたら、ボクは死んでしまうだろう。でも、何でボクが噛まれなきゃいけないのか。
恐いもの見たさで集まってきたスタッフ。左の彼女は腰が引けている。
そもそもヘビが何故、毒を持っているのか。それは毒とは獲物を捕らえるためや己の身を守るためにあるもので、ヘビは相手を攻撃するために毒を有しているのではない。だからボクが足元に気を付けてうっかりヘビを踏んづけないようにすればいいことだし、ボクが危害を加えようなんて考えなければ、ヘビは無駄に毒を使うことなく自分から逃げていくことを選ぶだろう。どんなヘビにとっても人間は餌でないのだから。
例えばボクはこう考える。
走っている電車の前に飛びだしたらぶつかって死んでしまう。だから飛びださない。こんなこと当たり前だけど、ヘビだって何をどうしたら危険かさえ知っていれば安全だと言える。もしそれでもボクが故意ではなくヘビに噛まれたとしたら、それはただ運が悪かったとしか言い様がない気がする。
しかしケニア人にはボクの言っている意味が理解できないらしい。ヘビは常に険悪なもので、死を導くと信じている。もっとも彼らはそうやって昔から生きてきたのだから、その過剰な安全対策を否定しようなんて思わない。
ボクがイチジクの樹を離れてから、スタッフは石を投げてブラックマンバを木から落とし、樹の棒で殺してしまった。