3・ ウミガメの産卵調査


WTWが管理するビーチには、年に数十回ウミガメが産卵にやって来る。その卵が無事に孵化し、子ガメが海に還るように管理するのも大切な仕事だ。
承知の通り、ウミガメは夜産卵しにやって来る。WTWのスタッフは夜間2回のパトロールをし、親ウミガメが浜へやって来ていないか調査する。産卵された場所は子ガメが無事に孵化するまで囲いで覆って保護される。ときには満ち潮の時海水を被ってしまうところや、人目につきやすい場所など適切ではない砂浜に親ガメが産卵してしまう場合もある。そんなときは「リプレイス」といって、卵の場所を移し替えることもする。
ボクの滞在期間中にも、一箇所そろそろ卵が孵化しそうな場所があった。砂の中で卵は約6週間後に孵化し、子ガメは砂の中からはい出るのに2日間かかるのだという。夜、僕らはその場所へ赴いた。しかしもうすでに昨晩孵化してしまっていて、子ガメたちの無数の足跡が砂浜に残されていただけだった。その次の日、「エクスカベーション」といってこの産卵場所を掘り返し、中の卵がいくつ孵化したのかなどを調べる作業があるので見学する。

卵までの穴の深さを記録する。

エクスカベーションした今回のこの場所は、WTWによってリプレイスされた卵だった。慎重に手で砂を掘り返し、卵に届く深さ40cmほどまで到達したとき、スタッフが楽しそうに声をあげて手を休めた。すると穴の底の砂がもぞもぞと動いている。それは子ガメの頭だった。砂の中には孵化していてまだ出てきていなかった個体がいたのだ。やさしく子供を手で包みあげ見学者に見せてくれた。みんな子ガメの可愛らしさに歓喜をあげた。

  

穴の中でまだ生きていたウミガメの子供を助ける。

自然のままだったら死んでいた可能性が高い。


合計10匹の生きた子ガメと、80個ほどの卵を取りだした。そして今度は卵を指で空けて中を確認する調査を始める。卵の中には孵化しきれず、卵の中で死んでしまった個体もいる。すっかり子ガメの形で卵の中で死んでしまった個体もいれば、個体が形成される前に生卵のような状態のまま死んだ卵もある。それらを分別して、この親ガメの卵の「孵化率」を調べるのだ。今回は半分ほどが無事に孵化し海へ還り、残りの半分は卵の状態で死んでしまっていた。これは平均でいうと非常に孵化率が低いのだという。WTWのスタッフはとても残念がっていた。

     

上左:レクチャーするウミガメ専門家のデイビット

上右:助けられた10匹のコガメ

下左:エクスカベーションの作業
孵化して空の卵と、死んでしまった卵に分ける。


ウミガメの卵が無事に孵化するためには、様々な環境条件を満たさなければいけないらしい。今回はどうやら、親ガメの遺伝的な要因によって非常に低い孵化率になってしまったのではないか、とWTWの主任でありウミガメ生態学者のイギリス人男性、リチャードは説明していた。

ワタムビーチに日が沈み、辺りが薄暗くなってきてから10匹の子ガメが海に還された。
砂浜に置かれた子ガメは自分たちの力で海へ歩いていく。夜行性のゴーストクラブと呼ばれる白いゲンコツのようなカニが集まりだした。子ガメの捕食者だ。まるでぜんまい式オモチャのように不器用に歩く子ガメを狙うカニたちを、僕らは追い払った。ようやく波にさらわれて水面に浮かぶ子ガメ。一心不乱に泳ぐその姿はあまりにも無防備に思えた。考えてみたら、子ガメは一度も母親に会うことなく、これからサバイバルな毎日を送らなければいけないのだ。

      

放されて海へ向かうコガメたち。

待ち構えるコガメより大きい捕食者のカニ。


野生条件の中、子ガメが生殖可能なオトナへと成長する確立は、1/1000だと言う。それは気が遠くなるほど哀しい生存率に思えた。だからカメは一度に沢山の卵を生まなければいけない。そのためには、人為的に保護管理されたワタムの砂浜が必要なのだ。

WTWの活動は、この地域に生息するウミガメの成育のために大きな役割を果たしている。
子ガメたちの無事を祈りつつ、WTWのスタッフとともにボクも、とても良いことをした気分になっていた。

追加:
ワタムを発つ日の早朝、猪飼さんからウミガメがビーチへ産卵をしに来ている、と電話がかかった。
ビーチへかけつけると、大きなアオウミガメのメスが海へ帰るところだった。
見るからに重そうなあの身体をゆっくり引きずる。ときおり動きを止めては休んでいた。甲羅がゆっくり上下して呼吸している。
そして、親ガメは日が明けようとする浜を去っていった。
この夜やってきた親ガメは産卵に適した場所をしばらく探したあげく、結局産卵せずに戻っていってしまったそうだ。お腹の中の卵はしばらくの間は生まずに我慢できるそうで、きっと明日また産卵しに来るよ、と言っていた。残念ながら今回は涙を流して卵を生む親ガメの姿を見られなかったが、またいつか機会があるだろう。


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